東京でユニークな建築のホテルが増加中。いま泊まるべき1軒はここだ。

  • 写真:岡村昌宏(CROSSOVER)
  • 文:佐藤千紗

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いま東京で増えているユニークな建築のホテル。業界内外で注目されるホテル・プロデューサーの龍崎翔子さんに、いま泊まるべきお薦めを挙げてもらった。


龍崎翔子●1996年、京都府生まれ。2015年にL&Gグローバルビジネスを創業、代表を務める。16年に「ホテル・シー キョウト」を開業。「ホテル・クモイ」などのリブランディングや運営も手がける。www.lngglobiz.com/


ONE@Tokyo ──異素材ミックスで、新旧が交錯する街を表現。

書斎をイメージした客室「ライブラリースイート」。ベニヤ合板をラフに重ねたような壁面が特徴的。素材はカジュアルだが、落ち着くデザインだ。

「その街らしさをどう解釈し、落とし込むか。ホテルにとって重要な『旅情』を感じさせるために、建築の果たす役割は大きい」と語る龍崎翔子さん。建築家が手がけるホテルというと、デザインばかりが突出するホテルも多い中、「街とホテルと建築のコンセプトに一貫性がある」と評価するのが、墨田区押上にある「ONE@Tokyo」(ワン@トウキョウ)だ。

東京スカイツリーの誕生以降、観光客で賑わう押上だが、かつては路地に町工場が密集する下町だった。デザイン監修を務めた隈研吾は、新旧が交錯するユニークな地域性をホテルに反映。工業素材と自然素材のミックスにより、雑多で下町的な空気感を表現している。ファサードはコンクリートの外壁の上に伝統的な木組みを集積し、現代アートのよう。一方、客室では壁面全体をベニヤ合板で覆い、工業用品のような印象を与えるステンレス製の水まわりとバランスをとっている。

異素材を大胆に組み合わせることで表現された押上の地域性を体感すると、街歩きはいっそう味わい深くなる。

ダイナミックに木を組んだ装飾をコンクリートの壁面に取り付けたファサード。1階のカフェはガラス張りで、街とのつながりをもたせた。

水まわりはインダストリアルなステンレス素材。ベニヤ合板の質感とコントラストが強調された。ロフトのようなソリッドな空間だ。

一般客も利用できるカフェは、天井からファブリックを垂らしやわらかな雰囲気に。ここでも異素材を大胆に組み合わせている。

スカイツリーを間近に眺められる屋上。夜はライトアップされた絶景を楽しむルーフトップバーとしても利用できる。夏季はビアガーデンとして開放。

東京都墨田区押上1-19-3
TEL:03-5630-1193 
www.onetokyo.com

TRUNK(HOUSE)── もと料亭を一棟丸ごと占有する、未知の宿泊体験。

1階は料亭、2階は芸者の稽古場として使われていた建物をリノベーション。神楽坂の街並みを形成する外観は手を加えずに保存した。photo: © TRUNK

石畳の路地に黒塀の料亭や小料理屋が点在し、花街の色香を残す神楽坂。その一角にある築70年のもと料亭「山路」がリノベーションされ、一棟貸ホテル「TRUNK(HOUSE)」(トランクハウス)が誕生した。人気の「TRUNK(HOTEL)」(トランクホテル)が企画した新プロジェクトだ。

外観は料亭として営業していた当時のままの日本家屋で、看板もそのまま。しかし中に入ると、ミラーボール輝くディスコや日本庭園を眺められるダイニング、浮世絵の描かれたバスルームなど、遊び心に満ちた贅沢な空間が広がる。これからの東京カルチャーを生み出すサロンのような場所として構想された。「神楽坂の花街の情緒、そこに息づいていたサロン文化をどう解釈し、継承するかというストーリーを感じます。建築だけでなく、食やアートも含め、五感で味わうというホテル全体のバランスが絶妙」と龍崎さん。

プライベートバトラー、プライベートシェフが付いて、1泊50万円から(2~4名利用)。海外のセレブリティがお忍びで訪れる隠れ家のような趣もある。デザインは野村訓市率いるトリップスターとトランクのデザインチームによるもの。映画人やクリエイターとも親交の深い、野村ならではの粋なデザインだ。

梁や柱などの構造は残してむき出しにし、間仕切りを取り除いた。シンプルな和の骨格にモダンな家具や照明が映える。

銭湯をイメージした檜風呂の浴室には、石川真澄による浮世絵が。さまざまなアーティストとコラボした作品が館内を彩る。

寝室には、ニューヨークの画家、アレックス・ドッジによる、芸者をモチーフにしたアートワークが飾られている。

東京都新宿区神楽坂3 
TEL:03-3268-0123 
https://trunk-house.com

nine hours Asakusa ──カプセルホテルが、浅草の歴史とリンクする。

カプセルユニットを積み上げたような外観に、素材や色の違う14種類の屋根をかけて、多様な店が連なる仲見世商店街を表現。1階にはフグレン浅草が入る。photo: © Nacasa & Partners

従来のカプセルホテルのイメージを一新し、移動の際の休息としての機能を追求した「9h nine hours」(ナインアワーズ)。建築家の平田晃久が設計した「ナインアワーズ浅草」は歴史ある仲見世商店街の景観を反映し、14種類の屋根が取り付けられた。さまざまな商店が集合したようなデザインだ。9階建ての建物に巻き付くように巡らせた外階段で各階の共用部へ移動でき、最上階からは浅草が一望できる。「街の歴史を取り入れた建築が面白い。コンセプトと空間と街が一貫している」と、龍崎さんは評価する。

1階には人気カフェ「フグレン浅草」が入る。「店内で使用されている家具や備品は購入可能。私のホテルでも家具の型番を聞かれることがあるんです。こうした手法も注目ですね」と龍崎さん。「眠る」ことを第一にしながら、その宿泊体験がユニークにデザインされている。

建物に巻き付くように設けられた階段の高層部は、浅草寺をはじめ浅草の街を一望できるビュースポットもある。photo: © Nacasa & Partners

シンプルで機能的な睡眠に特化したカプセルユニットのデザインは、プロダクト・デザイナーの柴田文江によるもの。photo: © Nacasa & Partners

東京都台東区浅草2-6-15 
TEL:03-5830-0057 
https://ninehours.co.jp/asakusa

hotel koé tokyo ──異業態をミックスした、ライフスタイルホテルの進化形。

3階のホテル客室。最も広い「XL」には離れをイメージした小上がりがある。コンセプトは「茶室」。ダークトーンで要素を抑えたインテリアは、素材感が際立つ。

サポーズデザインオフィスが設計した、ファッションブランド「koe」(コエ)のショップ兼ホテルという新発想の施設。1階はカフェレストランとイベントスペースで、週末の夜ともなると、クラブやライブ会場へと変貌する。中央の大階段は、ステージや客席として多様に使われる。「これまで活用されてこなかったエントランススペースに可変性をもたせ、クラブやポップアップショップとして利用しているのが新しい」と龍崎さん。

2階はアパレルショップ、3階はバーラウンジと客室、と異なる業態をミックスして構成。目的以外の空間に出合う楽しさがある。客室はダークトーンを基調に、茶室をイメージした空間に。「広くはない客室を、暗めの照明や色、水まわりの高級感でリッチに見せている」。館内を巡り、多様な空間の魅力を味わって欲しい。

渋谷公園通りの交差点に面し、カフェレストラン、アパレルなどを複合。

1階のカフェレストランはポップアップスペースにもなる。

「プライベートバーラウンジ」は宿泊客のみが利用できる。

東京都渋谷区宇田川町3-7 
TEL:03-6712-7251 
https://hotelkoe.com

こちらの記事は、2019年Pen11/1号「TOKYO建築案内。」特集からの抜粋です。