知が重層する世界へと誘う、カミーユ・アンロの日本初個展『蛇を踏む』が東京オペラシティ アートギャラリーで開催中。

  • 文:赤坂英人

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『青い狐』2014年 写真:伊丹豪

「自分は芸術的なものより、知的なものに興味がある」という方に、うってつけの展覧会が開かれています。現代のフランスにおいて知性派アーティストの筆頭に名前が挙がる、カミーユ・アンロ(Camille Henrot)の日本初の本格個展『蛇を踏む』です。

カミーユ・アンロは1978年パリ生まれ。近年はニューヨークを拠点にして、世界的な活動をしています。作品は映像、彫刻、ドローイング、インスタレーションなど多彩なスタイルをとり、モチーフは文学、神話、宗教、天文学、人類学など多岐にわたります。そして既成概念をものともしない情熱と知的好奇心とアイデアで作品を制作しているのです。

今回の個展は4章立ての構成です。日本の草月流のいけばなや日本の現代文学にインスパイアされた『革命家でありながら、花を愛することは可能か』の作品群から始まり、セルフポートレートのような繊細さが伝わってくる最新作のドローイング・シリーズ『アイデンティティ・クライシス』へ。そして第3章には代表作『偉大なる疲労』と対をなすと言われるインスタレーション『青い狐』が登場します。多種多様なオブジェが分析・構成された、この世界の秩序と多様性を暗示する重層的なインスタレーションです。

『偉大なる疲労』2013年 写真:伊丹豪

最後の章ではついに、アメリカ・国立スミソニアン博物館での綿密な調査に基づいた映像作品『偉大なる疲労』が大型スクリーンに映し出されます。2013年第55回ヴェネチア・ビエンナーレで銀獅子賞を受賞し、一躍世界的な注目を集めた記念碑的作品です。3億点以上の資料を収める博物館のなかで、アンロは世界各地の神話や宗教に伝わる始原の物語を探り、この作品をつくり上げました。

この『偉大なる疲労』は、軽快なリズムに乗って博物館のあらゆる情報にアクセスし、見るものを地の果てまで連れていくような映像作品です。同時に「知」の果てまで行って、私たちを再び多様性の渦と混沌と虚無に対面させるような作品でもあります。抽象的な言い方ですが、そこには人間の文明が求める合理性とその裏にある暴力性や死、神話の記憶や創造的な物語が混然一体となる極限の光景があるのです。アンロのつくり出す世界は、知的好奇心と芸術的感受性が極点で絡み合った、スリリングな時空間です。

2017年にはパレ・ド・トーキョー(パリ)において全館を使ったcarte blanche(全権委任・自由裁量)の個展開催の権利を与えられた史上3人目のアーティストとなるなど、近年の彼女の活躍には目を見張るものがあります。「十代の頃には、人類学者のクロード・レヴィ=ストロースの本をよく読んだ」と語るアンロの世界を、体験してみてはいかがでしょうか。

『どれにしよう』2019年 ink on paper courtesy the artist and galerie kamel mennour (Paris/London) Metro Pictures (New York) KÖNIG GALERIE (Berlin) © ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo 2019

『蛇を踏む』

開催期間:2019年10月16日(水)~12月15日(日)
開催場所:東京オペラシティアートギャラリー
東京都新宿区西新宿3-20-2
TEL:03-5777-8600(ハローダイヤル)
開館時間:11時~19時(金、土は20時まで)※入館は閉館の30分前まで
休館日:月(祝日の場合は翌火曜)
入場料:一般¥1,200(税込)
https://www.operacity.jp/ag/exh226/