キーワードは「美しさ」と「共振力」。2019年のグッドデザイン賞が決定!

  • 文:小川彩
  • 協力:公益財団法人日本デザイン振興会

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「今年の応募作品には、美しさだけでなく共振力が備わったものが多かった」と言う審査委員長の柴田文江さん。

10月2日、2019年のグッドデザイン賞が発表された。今年は4772件の応募総数から1420件が受賞。その中から2019年のグッドデザイン賞を象徴する「ベスト100」がさまざまな領域から選ばれている。

今年の審査でテーマとなったのは「美しさと共振力」だ。昨年のテーマである「美しさ」を踏襲しつつ、「共振力」という言葉を加えた柴田文江審査委員長と斎藤精一審査副委員長。共振力とは、デザインがなにか新しいモノやコトをもたらしたり、そのプロジェクトに関わった人々が良好な関係性を築いたり、人や社会などあらゆる方面に波及効果をもたらすデザインの力と言える。

「グッドデザインには、そのような共振力があるはず、という仮定で審査に挑んだ結果、数多くの素晴らしいデザインに出合えました」と柴田さんは振り返った。

自動運転バス「GACHA(ガチャ)」。フィンランド発の全天候型自動運転バス。実証実験を重ね、来年の実用化を目指している。社会に実装させる仕組みだけでなく、車内でコミュニケーションが取れる居心地のよさも高く評価。

「Ginza Sony Park(銀座ソニーパーク)」。銀座の中心に期間限定で設置している垂直立体公園。さまざまな催しを受け入れられるよう設計した、街に開かれた施設として注目を集めた。

「いいデザインには、必ず共振力が備わっている」という確信をもった柴田さん。今年のベスト100に選ばれたものには、特にパブリックにおけるサービスや取り組みに秀逸なデザインを見出すことができたそう。少子高齢化が進む地域社会でシェアする公共交通機関としての自動運転バス「GACHA」や、行き先施設をスポンサーとした地域デマンド交通システムの「チョイソコ」など、交通弱者へのアプローチにフォーカスしたモビリティデザインがひとつの例だ。

都心のランドマークだったビルの跡地を期間限定の実験的な「変わり続ける公園」とした「Ginza Sony Park(銀座ソニーパーク)」。老朽化した鉄骨造2階建アパートをリノベーションし、さまざまな生業(なりわい)を展開できるように土間を設け、入居者と地域住民がマルシェを通じて交流する空間を生んだ「欅の音terrace」。どれもパブリックのあり方に一石を投じる印象的なデザインだ。

ナリワイ型賃貸集合住宅「欅の音terrace」。全住戸に店舗やアトリエの機能を持たせる土間をつくった。多様な働き方を建築で後押ししながら、住民同士、住民と地域のコミュニケーションも生み出す。

素材開発など、「美しさ」の背景へのまなざし。

焼き物の産地・有田で誕生したテーブルウエアのブランド「1616/arita」。プロダクトの世界的な評価だけでなく、産地への波及効果や関係人口の多様化など、地域への共振力が注目された。

テクノロジーを採り入れたり、新たなマテリアルの開発にデザイナーが関与したりした痕跡は、できあがったプロダクトからはなかなか見えてこない。だが「モノ」の完成度だけでなく、その背景にまで踏み込んで審査するのもグッドデザイン賞の特徴だ。

佐賀県有田焼のブランド「1616/arita」は、伝統的な技法だけでなく、薄くても強度の高い素材を職人とともに開発。産地と外国人デザイナーとの交流を継続させながら新たな価値を生み出すなど、真に地場産業の競争力を高めるプロジェクトとして育っている点が共感を呼んだ。世界73カ国にシェアをもつYKKのファスナー「グリーンライズ」は、脱石油資源を目指し、サトウキビの廃糖蜜から開発した繊維でチェーンとテープ部分をつくっている。まだパーツの一部ではあるが、世界展開するメーカーとして、ゆくゆくは100%植物由来の原材料を目指す方向性と姿勢が高く評価された。

「中国のデザイン業界は日本をベンチマークにしていて、グッドデザイン賞をその評価軸として捉えています」と齋藤さん。ますます海外の応募が増えるグッドデザイン賞の世界的な責任にも触れた。

Xiaomiが開発したパッケージデザインシステム「One Paper Box」。廃棄物を削減する社会課題に対する大きな取り組みだ。

ベスト100審査のプロセスでは「本来のエコとは」「パッケージはどうあるべきか」「サステナブルなマテリアルはどうあるべきか」といった問いが領域を横断して活発に交わされた。特にビジネスモデルや仕組みなど、さまざまな分野の関係者が携わるデザインを評価する際に、「共振力」が重要な軸になったのかもしれない。

貧困層・低所得者層のカーローンのリスクを最小化し、車両の所有を可能にして就業促進を目指す「グローバルモビリティサービス」は、IoTデバイスを用いたFinTechサービス。貧困という社会課題解決に向けたビジネスモデルを、さまざまなステークホルダーとともに立ち上げ、各国で実走させている。中国を代表する家電メーカーXiaomiが開発したパッケージデザイン「One Paper Box」は、家電製品のパッケージボックスを1枚の紙で構成し、さまざまな電気製品に利用するシステム。メーカーが廃棄物を減らす課題に取り組むうえでデザインを生かした点が現代の社会の意識に沿っていた。

それぞれの審査委員が受賞作からひとつだけ選んだデザインを紹介する、「私の選んだ一品」展が現在開催中。デザイナーたちが優れたデザインをすくい取る独特の視点や言葉に、毎年興味がそそられる展示だ。

「それぞれのデザインが、私たちの暮らしに何を、どのようにもたらしてくれるか。審査委員は未来を見立てるような意識をもって長い議論を重ねた」と柴田さん。濃密な審査を経た最終舞台が、来る10月31日に行われるグッドデザイン賞授賞式および大賞選考会だ。その前にも、金賞と大賞候補であるファイナリストを選ぶために、べスト100受賞者によるプレゼンテーション公開審査が10月9日に行われる。熱のこもったスピーチを受けた審査委員による最後の審査はどのような結果になるのか。さまざまな社会課題や未来の美しい生活に向き合って、100のデザインが発信するメッセージに注目したい。

グッドデザイン賞 「私の選んだ一品展」

開催期間:2019年10月2日(水)〜10月25日(金)
開催場所:東京ミッドタウン・デザインハブ
東京都港区赤坂9-7-1 ミッドタウンタワー5階
入場無料


グッドデザイン賞受賞展「GOOD DESIGN EXHIBITION 2019」

開催期間:2019年10月31日(木)〜11月4日(月)
開催場所:東京ミッドタウン各所
東京都港区赤坂9-7-1
開催時間:11時〜20時
入場無料


同時開催グッドデザイン・ロングライフデザイン賞

開催場所:21_21 DESIGN SIGHT ギャラリー3
開催時間:10時〜19時


問い合わせ先/日本デザイン振興会 http://www.g-mark.org