急成長するファッションEC「ファーフェッチ」、ジョゼ・ネヴェスCEOに聞いた“成功の秘訣”とは。

  • 写真:安達紗希子(CROSSOVER) 文:佐野慎悟
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ファーフェッチ ジャパンのオフィスで取材に応じる、ジョゼ・ネヴェス創業者兼CEO。ファーフェッチは創業当時からラグジュアリーファッションブランドとの取り組みに特化している。

イギリス発のファッションECサイト、「ファーフェッチ」をご存知だろうか? 巷では「ZOZOTOWN」を運営するZOZO買収のニュースが話題となったが、設立からわずか11年と後発のファーフェッチは、他社がなかなか実現できないラグジュアリーマーケットの開拓を破竹の勢いで進め、高級ファッションブランドに特化したECサイトとして、右肩上がりの急成長を続けている。
ブランドから商品を買い付けて販売する一般的なECサイトとは異なり、ファーフェッチはブランドやセレクトショップの商品と消費者をつなげる「マーケットプレイス」というプラットフォームを設け、商品の撮影、物流、カスタマーサービスなどネットで商品を販売するためのインフラを売り手に提供するという、独自のスタイルをとる。さらに、ブランドやセレクトショップから直接購入者に商品が発送されるため、ファーフェッチは在庫をもたない。このような仕組みにより、自社でECサイトを運営していない新進気鋭のブランドをはじめ、知る人ぞ知るセレクトショップやエクスクルーシブな高級ブランドなどが、ファーフェッチのマーケットプレイスを通して世界中の消費者にリーチしている。

ファーフェッチのトップ画面には、独自に編集したエディトリアルコンテンツが展開されている。他社サイトと比べると、セール情報や値引率よりも、ブランドやショップの世界観とクリエイティビティを前面に打ち出し、商品の付加価値をしっかりと訴求している印象だ。今年の1月には、「バレンシアガ」がファーフェッチ限定のカプセルコレクションをローンチした。

ファーフェッチはパートナーブランドやショップからアイテムを借り、自社で撮影しサイトに掲載する。多くのブランドや世界中のセレクトショップの在庫を一同に揃えているため、国内のショップで取り扱いのないラインアップ、色、サイズ展開が可能となっている。

「ファーフェッチは現在22カ国でローカライズされていて、15の言語に対応し、ブランドと小売店を合わせると、1,000以上のパートナーを抱えています。短期間でここまで成長することができましたが、まだまだやるべきことは山積みです。日本においては特に、オンラインのラグジュアリーマーケットはとても新しい分野ですし、ファーフェッチの認知度も格段に上げていく必要があります」と語るのは、ファーフェッチ創業者のジョゼ・ネヴェスCEO。彼は2014年にアジアで初の現地法人となるファーフェッチ ジャパンを設立したが、それ以来日本国内での売り上げは、毎年2ケタ成長を続けているそうだ。もちろん海外での躍進も特筆すべき内容で、ここ数年だけでも、18年にニューヨークで株式上場、そしてシャネルと資本業務提携、今年に入ってからは「オフ−ホワイトc/o ヴァージル アブロー」を傘下にもつイタリアのニューガーズグループを買収するなど、その一挙手一投足がファッション業界のビッグニュースとなっている。

2018年の時点では、ファーフェッチは“創業10年以内”、“評価額10億ドル以上”、“未上場”、“テクノロジー企業”という条件をすべて備え、世界でも数少ない“ユニコーン企業”に名を連ねていた。しかし創業から10年を迎えた同年の9月21日に、ファーフェッチは満を持してニューヨーク証券取引所に上場。公開価格の20ドルを大幅に上回り、初日終値が28.45ドル。同社の時価総額は、40億ドル台という計画時の予想に対して、80億ドルを超えた。

ファーフェッチはイギリスの老舗百貨店ハロッズをパートナーに迎え、同社のデジタル戦略やEコマースの運用を全面的にサポートしている。ファーフェッチが「ファーフェッチ・プラットフォーム・ソリューションズ」と呼ぶこの事業には、ハロッズのほかにも「トム・ブラウン」、「エミリオプッチ」、「マッキントッシュ」、「アミ」など、名だたるファッションブランドが名を連ねている。

大規模な買収を繰り返しながら、事業の規模をダイナミックに拡大し続けているファーフェッチ。2018年12月にはスニーカーのリセールストアである「スタジアム・グッズ」を、今年8月には「オフ−ホワイト」の親会社であるニューガーズグループを買収した。写真はスタジアム・グッズのニューヨーク・ソーホー店。

ニッチなビジネスこそ、デジタルの力で世界とつながる。

ジョゼ・ネヴェス●1974年、ポルトガル生まれ。ポルト大学では経済を学び、卒業後、90年代からロンドンで「スウェア」、「シックス・ロンドン」、「Bストア」といった好感度なブランドやショップを手がける。2008年にファーフェッチを設立。

ファーフェッチはマーケットプレイスを運営するだけではなく、自社で培ってきたEコマースのノウハウや技術、物流システムなどを活用して、ラグジュアリーファッションブランドや百貨店のデジタル戦略やEコマースの運用を包括的にサポートするサービスにも力を入れている。さらにシャネルやトム・ブラウンとは「拡張リテール」というビジョンのもと、実店舗とデジタルテクノロジーを融合した、新しいラグジュアリーブランド体験を開発。
「私のキャリアは、1996年にロンドンで小さなシューズショップをオープンしたことに始まりました。その後はぽってりとしたシルエットが特徴的なシューズブランド『スウェア』を手がけ、カッティングエッジなブランドを集めたセレクトショップも経営しました。私はインターネットやデジタルの革新を信じているのと同時に、アバンギャルドなクリエイティビティや、実店舗で得られる刺激的な体験も信じています。ファッションは映像や音楽のように、完全にデータ化できるメディアではありません。だからショップというフィジカルな存在は、今後も必要不可欠です。デジタルとフィジカルをどのように融合させていくか、そこにこそ、ファッションの未来はあるのです」

いまでもファーフェッチで展開されているシューズブランド「スウェア」のスニーカー。2000年代のはじめにブレイクしたブランドで、エッジを効かせた最先端のデザイン性と、履き心地のよさ、プレミアム感、プライスのバランスに優れている。

まだまだやることは山積みと、今後の展開について生き生きとした口調で話すネヴェス。インタビューの中で時折見せる笑顔が印象的だった。

ネヴェスはシューズのショップをオープンすると同時に、ウェブサイトを立ち上げEコマースを開始した。「これは多分、ファッションの分野では最も早いタイミングだったはず。そして最初のオーダーは、なんと日本から届いたのです。ポルトガル人の私が、ロンドンに小さなショップを開いて、マーケティングや広告も一切なしに、日本のお客さんにシューズを売ることができました。この瞬間、『革命が起きる』と確信したのです。それ以来私は、世界中に存在している個性的なショップやブランドを、デジタルの力で世界中の消費者とつなげるシステムの構築に専念してきました。その結果が、ファーフェッチの現在の姿なのです」
エアビーアンドビー、ウーバー、オープンテーブルと、現在ネットの世界で成功を収めているプラットフォームには、ひとつの共通点がある。それは、ニッチで個性あふれるローカルビジネスを、デジタルの力で世界中の消費者とつなげる、フィジカルとデジタルが融合したプラットフォームだということ。この潮流をつくり上げたさきがけであるファーフェッチは、いままさに、ファッションの世界に大きな革命を起こそうとしている。

ロンドンにあるファーフェッチ本社のオフィス。ネヴェスCEOは、1996年にロンドンのコヴェントガーデンに開いた小さなシューズショップからキャリアをスタートし、「スウェア」や「Bストア」をブレイクさせ、ファーフェッチではついに、世界のファッションシーンを席巻する存在にまで上り詰めた。

ロンドン本社には多くの応接室があるが、どれも空間が広く取られ、ラグジュアリーな雰囲気に包まれている。高級品を低価格で多売するのではなく、高級品を高級品として扱い、その魅力や価値を正確に伝えられる点がファーフェッチの強みであり、ブランドやショップから信頼を集めている理由だ。

問い合わせ先/ファーフェッチ カスタマーサービス
TEL:050-3205-0864
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