これは新しい音楽体験?! 音を顕微鏡レベルで“見せる”、『音のかたち』展。

  • 文:はろるど

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『針と溝』のアプローチで、Samuel Belay『Lebene Shiwswe』(1973年)のレコードの盤面を捉えたビジュアル作品。まるで抽象絵画のようです。photo:Harold

雑誌『Ku:nel』(第1号〜76号)のアート・ディレクションはじめ、さまざまなエディトリアル・デザインを手がけるデザイナー、有山達也(1966年生まれ)。高校の時に初めてレコードを購入して以来現在もコレクションを続け、音楽を深く愛してきました。

そんな有山が、東京で初となる個展を開催しています。テーマに選んだのは「音」。しかし単に音楽を聴かせる展覧会ではありません。会場に並ぶのは、たとえばレコードの溝や針を拡大した写真など、音を「かたち」として捉えた作品です。有山は、オーディオ機器メーカーや名盤のレコードを復刻するエンジニア、またレコード針をつくる職人らに取材を行い、彼らの声をインタビューや写真に残して、音の可視化に取り組んだのです。

3mm四方の升目が記されたケース。写真ではわかりませんが、ギャラリーの名に因んで、升目のG8の位置に、長さ0.85mm、太さ0.12mmのレコード針が収められています。斜め下から覗き込むように見ると、針の姿を微かに確認することができます。photo:Harold

たとえば上の写真、3mm四方の升目が記された、小さなケースに注目して下さい。目を凝らすとGと8の升目に僅かな傷のような線が浮き上がって見えます。そう、これはダイヤモンド製の極小のレコード針。なんと長さ1mmにも満ち足りません。1949年からアダマンド並木精密宝石株式会社(秋田県湯沢市)が生産し、ベテランの職人が顕微鏡を覗きながら手作業でカットしてつくり上げたもので、よりよい音を追求していまも改良が行われているそう。アナログレコードの重厚な音色は、職人の卓越した技があってこそ生み出されているわけです。

有山は写真家・齋藤圭吾の『針と溝』(本の雑誌社、2018年)の仕事をきっかけに音を「かたち」として見せることを考え、今回の個展のプランを練りました。”音を見せる”といっても、展覧会を訪れるまでピンと来ないかもしれません。しかし、レコードをミクロレベルで写した作品はもちろん、オーディオの基盤設計図などは「かたち」としても美しい。テキストやビジュアルから音が立ち上がってくるのを体験すると、音楽の新たな楽しみ方に気づくのです。

『針と溝』齋藤圭吾・写真 本の雑誌社 2018年 レコード針と溝を接写レンズで写した作品集。エディトリアル・デザインを有山が手がけました。

会場ではヴィンテージオーディオから常にBGMとして、有山のセレクトしたロックやジャズ、クラシック音楽などが流れています。その豊かな響きに包まれていると、全身で音楽を聴く喜びが感じられます。photo:Harold

数千にも及ぶレコードのコレクションから、一部を展示。有山は2006年にバンド「スカンク兄弟」を結成してCDをリリースするなど、ミュージシャンとしても活動していました。photo:Harold

有山達也展「音のかたち」

開催期間:2019年8月27日(火)~10月5日(土)
開催場所:クリエイションギャラリーG8
東京都中央区銀座8-4-17 リクルートGINZA8ビル1F
TEL:03-6835-2260
開館時間:11時~19時
休館日:日・祝
入場無料
http://rcc.recruit.co.jp/g8/