オンライン ファッションストアの進化から垣間見る、ショップの未来予想図とは。

  • 文:海老原光宏

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プラダをはじめトップブランドも参加する「ファーフェッチ」。国内で取り扱いのないアイテムを買えるのも魅力です。

みなさん、洋服買ってますか? どこで買いますか? 私はオンライン上で買うことが増えました。電車の中で、スマートフォンを開いてアイテムを物色する人も多いのではないでしょうか。好きな時に、場所を問わず、物欲を満たしてくれる時代となりました。

じゃあどのオンラインストアで買うのかとなると、モード好きにお勧めなのがFARFETCH(ファーフェッチ)、SSENSE、YOOX(ユークス)、NET-A-PORTER(ネッタポルテ)など海外発ファッションECです。ブランドやアイテムが豊富に揃い、日本にないものも扱っています。さらに嬉しいのは、インポートブランドが日本より安いこと。そしてセールの時期も早い。日本では春夏モノのセールは7月1日からが多いですが、海外では5月下旬辺りから始まります。この原稿を書いている時点(6月上旬)でもすでに始まっていました(ジル サンダーのハーフパンツが35%オフ……)。これはチェックするしかないでしょう!

なかでも注目なのはファーフェッチです。ファーフェッチは2007年、ジョゼ・ネヴェスが創業した画期的なプラットフォームです。ゾゾタウン、ネッタポルテなどとは異なり自社で在庫をもちません。現存するブランドや店舗から世界中に販売できるオンライン上の売り場を提供するスペースなのです。この反則技ともいえる発想は投資家に評価されています。2014年日本市場に参入。2018年にはニューヨーク証券取引所に上場し、時価総額約8960億円(初日終値が1株約28ドル)の値が付いています。

2015年にはイギリスの有名セレクトショップ「ブラウンズ」を買収。実店舗の在庫を利用するビジネスモデルであるため、実際の店舗運営のノウハウをこれで得たことになります。2017年にはデジタルとリアルを連携させるストア・オブ・ザ・フューチャーをローンチ。店舗のゲスト行動をデジタルに集約し、分析するツールです。これはラグジュアリーのトップブランド「シャネル」が採用する予定です。

つまり、ファーフェッチのプラットフォームに乗れば、たとえ無人島のストアであっても世界190か国のユーザーに向けて販売できるのです。我々ユーザーもスマホを手にしていつでもなんでも買えます。その際、気になるのは、サイズです。「ZOZOTOWN」がゾゾスーツというサイズ計測サービスをつくりましたが、そこまでする必要はないでしょう。なぜかって? 実店舗で試着すればいいじゃないですか。

独自の視点で編集されたページにも注目。オンラインショッピングでも予想外のアイテムとの出合いが生まれます。

移動中や休憩時間にスマートフォンで閲覧。オンラインショッピングの中毒者も続出の模様。

実店舗は、試着用のショールームになる?

「ジェントルモンスター」旗艦店の4階フロア。赤い壁面のイラストは、イギリスのイラストレーターであるケイティー・スコットが描いたもの。写真:ジェントルモンスター

ECが発展すればするほど、店舗のショールーム化が話題となります。小売りではEC化率(ECでの売り上げ割合のこと)10%を超えると実店舗の売り上げに影響を感じるといわれます。実店舗は不要になるのか? 答えはノーです。店舗は必要です。購入ではなく、マーケティング用に存在させればよいのです。アイテムはサンプルのみを揃え、試着用とする。実物はその場でオンライン購入してもらう。そして撮影スペースを用意し、試着画像をSNSにポストしてもらう。空間はブランドの世界観を存分に表現すべきことはいうまでもありません。SNS文化が日本より発達している韓国、中国などでは、この形態がイケてるショップのステレオタイプとなっています。韓国発サングラスブランド「ジェントルモンスター」などは美術館のような空間を設えています。ソウルにある旗艦店では6層中3層にしかアイテムは置かれていません。他3層はブランドストーリーを伝えるスペースとなっています。店舗は購入の場ではなく、ブランドを体験してもらう場というわけですね。

店内は時期によりイメージコンセプトが変わります。現在の旗艦店3階フロアでは、植物が月明りを集光する様子を表現。写真:ジェントルモンスター

いま、時代を代表するワードとして、しばしば「体験」が叫ばれます。時間や感情を他人と共有できる食や旅のサービスが発展し、ライフスタイルがファッションだ、という時代に遷ってきました。ファッションはきわめて個人的なもので、他人と共有できる点はないに等しい。飲食では一人ではなく複数人との会食が目的でしょう(もちろんひとりで店を開拓する方もいますが少数です)。他者とのコミュニケーションが前提となっているのです。しかし、洋服で誰かとコミュニケーションするためにこのブランドを買う、ということは非常に稀じゃないでしょうか。ゆえに、体験価値が低い。接客の体験と反論されるかもしれませんが、多くのコンシューマーが接客されることを厭います。求めてもいないのに、売りつけられる気がして対応が面倒になることがありますよね。しかし、ショールームならば売りつけられることもない。その空間を楽しんでゲストは気持ちよく帰途につく。アイテムは拡散される。近い将来、百貨店内が百貨“展”になってるかもしれませんね。