ラフ・シモンズの「カルバン クライン」退任から見える、いまの若い世代が求めるファッションとマーケティングの最前線。

  • 文:海老原光宏

Share:

  • Line

ラフ・シモンズ●1968年、ベルギー出身。インテリアデザイナーを経てファッションの世界へ。自身の名を冠したブランドと並行し、ジル サンダー、ディオール、カルバン クラインのディレクターを経験。2018年末、売上不振からカルバン クラインを退任した。
Photo/Getty Images

現在ファッショントレンドを牽引しているデザイナーといえば、「グッチ」のアレッサンドロ・ミケーレや「バレンシアガ」のデムナ・ヴァザリア、「ルイ・ヴィトン」のヴァージル・アブロー、「ディオール」のキム・ジョーンズらの名が挙がるでしょう。各ブランド、インスタグラムでの訴求が強く、ストリートキッズなど若年層の顧客を獲得しています。
さてそんななか、ジル・サンダー、ディオールを渡り歩いてきたスターデザイナー、ラフ・シモンズがカルバン クラインのチーフ・クリエイティブ・オフィサーを辞める報道はファッション界に衝撃を与えました。前述の4人と比べても実力は引けを取らないデザイナーだと思いますが、退任の理由は売り上げの減少です。彼が生み出すアイテムがカルバン クラインの既存顧客層に合わなかったというのがその要因と報道されています。ですが実際にはそれよりも、新たな顧客を取り込むことができなかったことが本質ではないでしょうか。

ラグジュアリーファッションブランドはいま、インスタグラムに熱視線を注いでいます。次代を担うミレニアル世代(1989年~1995年生まれ)、ジェネレーションZ(1995年~2010年生まれ)という若年層のアクティベーションが高いこのSNSで未来の顧客をつくるべく、各社インスタマーケティングに力を入れています。

カルバン クラインも、もちろんその1社です。カルバン クラインのインスタアカウントを開くと、インフルエンサーが着用した画像のリポストで占められています。しかし、その着用画像が新ターゲット=インスタのメインユーザーである感度の高い若年層に響かず、ラフのコレクションは経営層が描く売り上げ計画を達成できなかったと考えられます。

対してミケーレやヴァージル、キムらは自らがインスタグラムで多大なフォロワーをもち、インフルエンサーとして機能しています。バレンシアガのシュールな写真の構図は目を引きますし、ヒットスニーカーであるトリプルSは重厚なデザインがインスタで主張します。これらに限らず、「ドルチェ&ガッバーナ」や「バルマン」はデザインの煌びやかさを増し、インフルエンサーも多く起用し、インスタ上でバエにバエ、売り上げは好調のようです(ドルチェ&ガッバーナは中国で炎上してしまいましたが)。

カニエ・ウエストのアートディレクターを務め、立ち上げたファッションブランド「オフホワイト」も話題のヴァージル・アブロー。2019年SSコレクションよりルイ・ヴィトンのデザイナーにも就任しました。
Photo/Getty Images

「バレンシアガ」のヒットスニーカーであるトリプルS。極端なボリュームで”ダッドスニーカー“というスタイルを定着させました。

明暗を分けた、アカウントの影響力。

「ラフシモンズ」2007年AWコレクションのアイテム。構築的なシルエットで一世を風靡しました。
Photo/Getty Images

ラフ・シモンズは自身のブランドアカウントはありますが、個人アカウントは開設していません。彼のデザインの特長はソリッド、ソリッドの延長にあるブロック的なグラフィック使い、テーマやディテールに添えるナイーブな少年性でしょう。ヴァージル、キムのようにインフルエンサーでもなく、グッチ、ドルガバのように煌びやかに飾らせるデザインでもありません。

たとえば彼の古巣であるジル・サンダーは、ネクストオールドセリーヌと目され注目が集まっていますが、インスタフォロワー数は27万と驚くほど小規模。ラフ・シモンズ同様にインスタにおけるデザイナーのインフルエンスは小さく、デザインもソリッドです。パッチワークしたように使うフォトグラフィックもラフ・シモンズと似ています。しかし、このようなテイストのファッションはインスタではさほど人気を集めないのでしょう。インスタグラムは高速で画面スクロールされる中、わかりやすく“バエ”をユーザーに訴求し、指を止まらせなければ人気を得ません。

売れる・売れないもマーケティング次第。求める売り上げにターゲットの規模が合い、そこに適切にリーチすればビジネスが成立します。ラフ・シモンズのデザインは10〜15年ほど前のピーク時に比べ、欲しい! と思う層が減少したのでしょう。客観的事実として、いまの若年層に響くデザインではないようです。

ピーク時、建築物かのように構築的なシルエットを描くバギーパンツやテーラードジャケットに多くのファッショニスタが魅了されていた記憶があります。シンプルなのに存在感を放つという形容がふさわしい服でした。また、その構築とは裏腹にグラフィックのパッチワークを施したアナーキーな雰囲気のモッズコートも代表的なアイテムです。ソリッドでもありカオスでもあるラフ・シモンズの内面と美意識が高度に表現された時期と感じます。この頃のコレクションはラフの全盛期であったといえ、古着市場ではいまも高値で取り引きされています。
しかし、モードは回るもの。トレンドはまた巡ってきます。ラフ・シモンズの次のキャリア、そしてデザインがどう変貌するのか。引き続き動向に注目が集まるデザイナーであることは変わりありません。

直近の2019年秋冬メンズファッションウィークではフォーマルへの回帰が散見され、ソリッドなスーツにひねりを加えるそんなトレンドが見られます。彼の真骨頂がまた評価される時代は、すぐそこに来ているのかもしれません。

Hot Keywords