「戦うのではなく、ギターで人を抱きしめたい」、 サムライ・ギタリストMIYAVIが最新盤でたどり着いた新境地。

  • 写真:田中丸善治
  • 文:大嶋慧子

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ギターをピックではなく指でかき鳴らす‟スラップ奏法”で注目を浴び、世界約30カ国350公演以上のライブを成功させるなど、ワールドワイドに活躍するギタリスト、MIYAVI。曲がスタートするやいなや、一気にトップギアまでもっていくスピード感、見る人をクギ付けにするパフォーマンスとテクニック――。‟サムライ・ギタリスト”の異名をもつ彼は、まさに押しも押されもせぬ日本を代表するアーティストです。

そんな彼の最新アルバム『SAMURAI SESSIONS vol.3 –Worlds Collide –』が、2018年12月5日に発売となります。本作品は、キャリアやジャンル、国境も超えた、さまざまなアーティストとコラボレーションする‟対戦型”のアルバム『SAMURAI SESSIONS 』の第三弾。俳優のサミュエル・L・ジャクソンが参加していることでも、話題になっています。しかし、どこかいままでのアルバムとは違うなにかをそこに感じます。言葉にするとすれば、それはある種の心地よさです。本人に、いまの思いを聞きました。

──── いままで通りの激しさやパワーは健在なのですが、今回のアルバムはとてもメロディアスですね。

MIYAVI ギタリストとして、いま、ギターで歌いたいという気持ちがあるんです。いままでギターを刀がわりに飛んでくる弾を切って切って切りまくってきたんですが、弾は切れても戦車は切れない。そして戦車は無数にやってくる(笑)。海外だと特に限界を感じます。海外を相手に戦うことを考えてきたのですが、そもそも戦うこと自体が正解なのか? それは違うだろうと。僕はギターで人をハッピーにしたい、ワクワクさせたい、抱きしめたいんです。音楽こそが、言葉の壁や文化や国境や壁を超える。言葉が通じなくても、全然違う国の人たちが音楽を通じてひとつになれる。ずっとスラップでリズムを叩いていたんですが、リズムをベースに表現してきた中で、もっともっとギターで歌いたい、といま強く感じています。

プロデューサーのジャム&ルイスのテリー・ルイスが「MIYAVI、メロディこそがキングなんだよ」と僕に言ったことがあります。それは、彼がマイケル・ジャクソンから言われた言葉でした。僕はその時はそれこそスラップ全盛期だったので、ピンとこない感じだったんですが、いま身に染みてわかる。人って踊りたいし歌いたい。メロディが自分の記憶と結びついて、思い出になっていく。それが、人と人の心を結びつけていく。いま、ギターミュージックというものがなかなかラジオやテレビから聞こえてこない。そんな中で、新しいギターミュージックをつくる。それが自分のギターをもってなすべき使命だと思っています。だから、今回のアルバムではギターを前提にいろんなチャレンジをしました。スラップは自分のシグネチャートーンですが、それとは別にいかにソフトなトーンを表現するか。いかに自分らしくメロディを弾くかが大きな挑戦でした。

──── 後半に行くほどメロディアスですね。3人の女性ボーカルが続きますが、それは意図的なものですか?

MIYAVI それは曲調、曲順や曲の流れで決めたので、特に意図はないです。今回ギターで歌うという自分のギタリストとしての使命がある一方、洋楽と邦楽の壁を壊すというも大きなミッションでした。日本では、洋楽と邦楽に分かれてますが、日本だって世界の一部。その壁を壊すことも日本人アーティストとしてのひとつの使命かなと感じています。世界中どこへ行っても、踊りたい、歌いたい気持ちは一緒。だからその辺は、あまりこだわらずにごちゃ混ぜにしてみました。このアルバムは僕にとってもすごく実験的。これがいますぐすべて日本のマーケットには刺さるとは思ってないけれど、こういう音楽が日本の音楽シーンで鳴ってていいんじゃないかと思うし、鳴っているべきだとも思っています。

いまシェアしたい思いを綴った、初の著書もリリース

──── 俳優のサミュエル・L・ジャクソンとのコラボレーションのきっかけは?

MIYAVI 『キングコング 髑髏島の巨神』という映画に俳優として出演している時に知り合いました。彼は日本のアニメとか映画が大好きで、日本文化をとてもリスペクトしてくれています。そこから連絡を取り合うようになり、今年の夏にロンドンのスタジオで別の映画を撮影してる時に、ノリで頼んだらノリでオーケーしてくれました(笑)。海外や日本のアーティストがごちゃ混ぜに参加してるこのアルバムの冒頭で彼が「サムライ・ギタリスト、ミーヤーヴィーーー!」って叫んでる(笑)。そんな遊びがあって、僕はいいと思うし、なにより世界的な俳優が参加してること自体、夢があるじゃないですか? そんなワクワクやドキドキを届けるのが自分たちの役目でもある。彼とのセッションも素晴らしかった。彼の声に強い説得力と表現力があります。

最終的に僕は、新しいギターミュージックをつくりたい。“MIYAVI印”をサウンドやトーンでつくりたい。DJや、サウンドプロデューサーに近い感じです。歌い手が誰であってもこれがMIYAVIの曲だとわかる。でも、セッションなので自分もインスパイアされることも多かったです。アーティストから声をもらってギターのアプローチを変えたり、アレンジを変えたりしました。他のアーティストとやるのはいつもすごく楽しいですし、インスピレーションをもらうと僕も新しい面が引き出されます。

──── MIYAVIさんはこの11月に初の著書『何者かになるのは決してむずかしいことじゃない』をリリース。これも新しいチャレンジですね。

MIYAVI お話をもらって正直、時期尚早かとは思いました。まだまだサクセスストーリーを語る年でもないし、これから成し遂げなくてはならないこともある。でも、逆に登ってるいまだからこそ、紡げる言葉もあるのかなと。実際、自分より下の世代で、どんどん社会を引っ張ってる人たちも出てきている。そういう人たちに対していま自分がシェアできることがあるかなと思って、この本を書きました。こんなに日本語を書いたのは久しぶりです(笑)。

──── 本の中で子どもの頃、目に見えない誰かにちゃんと生きてるか監視されてる気がしていたとありますが、いまでもそうですか?目に見えない誰かとは誰ですか?

MIYAVI いまでもそうです。誰なんだろう。実際、自分たちは目に見えない音というものを扱ってます。音の波形や波動も目には見えてないけど、そこに確実に存在する。また、お祈りをしたり、思いがつのり重なり物事がかたちになっていったりすることって、多々あります。それと一緒で、自分の思い、他者の思い、先祖の思い、先々にいる人の思いは存在していると思う。そういう人たちの存在かもしれないし、自分たちはこの地球に適応した生き物ですが、また違う惑星の人たち、違う次元の存在かもしれない。僕たちは欲望と理性の狭間で生きてる。その中でやるべきことっていうのをやるべきだし、やるしかない。それを見ていてくれる存在がいるのかなと思います。

──── ロンドンでのアフガンの占い師の言葉は興味深いですね。MIYAVIさんは、本当はキングではなくキングをつくる人だという。

MIYAVI 実際、自分もそう思います。器用なのでいろいろやりますが、基本は裏方のほうが合ってると思う(笑)。マネジャーとかね。いまは、アーティスティックな部分もあるからそこを使って仕事をしてますが、自分の中のロジカルな部分も活かしてあげたいとは思います。でもまあ、ギターに出合ってしまったし。ギターに出合ったその日から夢中になった。ギターといつも一緒にいたい。俳優やファッション、人道支援の活動もしますが、死ぬまでギターは弾いていたいと思います。


裏方気質を活かして未来をダイレクトにつくるような仕事にも興味があるというMIYAVI。新しいアルバムでは、MIYAVI印のメロディとともに、いままで以上にコラボレーションしたアーティストをフロントランナーとして立たせた、彼の“裏方気質”が垣間見られます。ワールドワイドに音楽や俳優以外でも活躍する。そんなMIYAVIとも、ぜひどこかで出会いたいものです。



『SAMURAI SESSIONS vol.3 – Worlds Collide –』 MIYAVI  TYCT-60126 ¥3,240(税込)

『何者かになるのは決してむずかしいことじゃない』 MIYAVI著 宝島社 ¥2,400(税込)

『SAMURAI SESSIONS vol.3 – Worlds Collide –』 

初回限定盤(CD+DVD)   TYCT-69137【CD】全 14 曲収録 【DVD】MIYAVI “DAY 2” World Tour Live at Zepp Tokyo ¥5,400(税込)
通常盤(CD)  TYCT-60126  全14 曲収録 ¥3,240(税込)