近年、海外で日本美術の大規模な展覧会が相次いで開催され、大きな注目を集めています。イタリア、フィレンツェのウフィツィ美術館では、昨年10月から今年1月にかけて、『花鳥風月—屏風・襖にみる日本の自然—』が開かれ、室町、桃山、江戸時代と受け継がれた、日本人の自然に対する想いや美意識が表現された山水画や花鳥画の屏風が展示されました。
さらに今年の9月には、ロシアのモスクワにある国立プーシキン美術館で、尾形光琳、円山応挙、伊藤若冲などの作品を含む、江戸絵画の名作135点を紹介する『江戸絵画名品展』が開催。ロシアでの日本美術展覧会としては最大規模で、現地での注目度は高く、待ち時間が4時間30分の日もあったほど。総入場者数は2ヶ月間で約12万7000人という大盛況となりました。
そして今年とくに話題を呼んだのが、パリの市立プティ・パレ美術館での展示。近年、日本で圧倒的人気を誇る江戸中期の天才画家・伊藤若冲の畢生の大作『動植綵絵』30幅と『釈迦三尊像』3幅が一堂に会した『若冲―〈動植綵絵〉を中心に』展です。入場者数は、開催わずか1週間で1万人を超え、会期終盤には、入場を待つ人が長蛇の列をなし総入場者数は7万5000人に達しました。
なぜ、いま日本美術が海外で注目されるのか。
欧州を中心に展開されたこれらの展覧会は、浮世絵や仏像に代表される海外で既に高い人気を誇るジャンルだけでなく、近年日本国内で注目を浴びる江戸時代の絵画を中心に紹介するものです。
また、これらの展覧会は国際的な文化交流の一環として行われたものでもあります。モスクワでの『江戸絵画名品展』は、2018年を「ロシアの日本年」および「日本のロシア年」と定め、その文化交流事業のひとつとして実施されたもの。さらに、パリの『若冲―〈動植綵絵〉を中心に』展は、日仏交流160周年を記念し、日本のさまざまな文化芸術をフランスで紹介する「ジャポニスム2018」のメイン展示として開催されました。現在は、このイベントの一環で俵屋宗達の代表作『風神雷神図屏風』のほか、本阿弥光悦、尾形光琳、尾形乾山などの琳派の傑作が揃う『京都の宝 —琳派300年の創造』展が、パリ市立チェルヌスキ美術館で開催されています(2019年1月27日まで)。教育や音楽などのさまざまに展開する文化交流のなかで、日本美術は大きな反響を呼んでいるのです。
なぜ、これほど日本美術が海外で注目されるのでしょうか。文化庁や国際交流基金などによる日本美術の価値を高める取り組みが後押ししているのは間違いありませんが、漫画やアニメを通して知った日本文化への興味や親近感が、そのまま日本美術への関心に繋がっていることが大きいのではないでしょうか。モスクワやパリで、老若男女が列をなし、入場の時を待つ姿からは、“日本からやってきた美しいものとの出合い”を期待する、一種の高揚感が感じられます。また、伊藤若冲や長澤芦雪といった江戸時代の画家に注目が集まるのも、近年の日本での江戸絵画ブームと同じく「こんな画家がいたのか!」という驚きと、その作品の面白さを再発見した感動が、インターネットやSNSを通して広く伝播したからと言えるでしょう。
縄文時代から続き、奈良、平安、鎌倉、室町、桃山、江戸…と継がれる日本人の美意識の結晶とも言える日本美術。幾多の天変地異や戦火を逃れ、現代に残された日本の至宝は今後、さらに多くの国から熱い視線を浴びるに違いありません。