『フィンランド陶芸』展で、北国の詩情を感じる知られざる陶器を目撃せよ。

  • 文:佐藤千紗

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アルフレッド・ウィリアム・フィンチ 花瓶 1897-1902 年  アイリス工房 コレクション・カッコネン photo:Niclas Warius

連日、酷暑が続く東京で避暑を求めるなら、目に涼やかな『フィンランド陶芸』展はいかがでしょうか。場所は公園の緑の中に佇む目黒区美術館。のどかな屋外プールを横目に館内に足を踏み入れると、ひんやりなめらかな陶器が静かに迎えてくれます。

フィンランドと日本の国交樹立100周年を記念した同展では、19世紀末のアーツ&クラフツ運動に影響を受けた黎明期から1950〜60年代の黄金期まで、フィンランドのモダニズム陶芸を体系的に紹介しています。特徴的なのは、これまで日本で注目されてきたプロダクトデザインとしての器ではなく、作家の芸術表現に光を当て、美術工芸品として紹介していること。実用的な食器だけでなく、飾るための花器や壺、陶板や彫像まで幅広いアイテム137点が展示されています。

そもそも、フィンランド陶芸の出発点は、アーティストであるアルフレッド・ウィリアム・フィンチが設立したアイリス工房やアラビア製陶所にあります。素朴な草花をモチーフにした、日本の民芸にも通じるような、フォークロア的な色彩が強い花瓶などを製作。当時流行していたアール・ヌーヴォースタイルは、ロシアからの独立を求める機運とも重なり、フィンランド独自のナショナル・ロマンティシズムとして結実します。

そして1900年のパリ万国博覧会で、フィンランド陶芸は国際的に高い評価を受けます。その後32年にはアラビア製陶所に美術部門が設立され、所属アーティストは量産品のデザインにかかわる一方、自由な創作活動の場も与えられました。

こうして、他のヨーロッパの名窯がクラシックなスタイルを堅持するのに対し、フィンランドでは、独自の生活に根ざした、‟オーガニックモダニズム”と言われる陶芸が発展します。中国や日本の影響も大きく、フリードル・ホルツァー=シャルヴァリによる「ライス・ポーセリン」は中国の‟蛍手(ほたるで)”という透かし彫り技術を取り入れたもの。現在も人気のあるイッタラの「パルティッシ」を製作したビルゲル・カイピアイネンのように、絵画的な表現も展開されました。

展示を見ていくと、こうした陶芸家たちによる独自の表現の追求が、カイ・フランクによる「ティーマ」などのプロダクトラインに反映されているのがよくわかります。庶民の生活を見つめながら、個人の内面の表現を探ること。それが、フィンランド陶芸が、いまのライフスタイルにも馴染む理由でもあるのでしょう。現代の器人気にも通じる、フィンランド陶芸の精神に触れることができる、またとない機会になっています。開催は2018年9月6日まで。お見逃しなく。

フリードル・ホルツァー=シャルバリ ボウル(ライス・ポーセリン) 1950 年代  アラビア製陶所 コレクション・カッコネン photo:Niclas Warius

トイニ・ムオナ 筒花瓶 1940 年代   アラビア製陶所 コレクション・カッコネン photo:Niclas Warius

日本・フィンランド外交関係樹立100周年記念 『フィンランド陶芸』

開催期間:2018年7月14日(土)〜2018年9月6日(木)
開催場所:目黒区美術館
東京都目黒区目黒2-4-36
TEL:03-3714-1201
開館時間:10時~18時 ※入館は18時30分まで
休館日:月 ※ただし、7月16日(月・祝)は開館し、翌17日(火)は休館
入館料:一般¥800(税込)
www.mmat.jp