ブラジルが愛した女性建築家、リナ・ボ・バルディの足跡をたどる貴重な一冊が登場!

  • 文:山田泰巨

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『リナ・ボ・バルディ - ブラジルにもっとも愛された建築家』和多利恵津子(ワタリウム美術館)監修 ¥4,644(税込) TOTO出版刊

リナ・ボ・バルディをご存じでしょうか。ブラジルで活躍したこの女性建築家の名は、2015年から16年にかけてワタリウム美術館で行われた展覧会をきっかけに、より多くの人の知るところになりました。これまであまり日本では知られていなかった彼女の足跡が、このたび作品集『リナ・ボ・バルディ - ブラジルにもっとも愛された建築家』としてついに1冊の本にまとめられました。

リナ・ボ・バルディは1914年、イタリア·ローマに生まれました。ローマ大学で建築を学び、ジオ・ポンティに師事したリナは、1946年に夫ともにブラジルに移住します。多民族で複雑な社会階層が混在するブラジルを舞台に、彼女は建築によって新たな文化を築いていきました。21世紀になり、建築はより開かれた場所を志向するようになりますが、リナの作品はそれを先駆けるもの。1978年に竣工した代表作のひとつ、「サンパウロ美術館」では、4本の赤い柱と2本の大きな梁で展示空間を持ち上げた橋のような建築を実現し、地上に市民のための大きな広場をつくり出しています。

本書は、処女作「ガラスの家」をはじめ、「サンパウロ美術館」のほか「SESCポンペイア文化センター」「テアトロ・オフィシナ」など主要な建築作品、家具やキュレーション、舞台デザイン、植栽デザインなど、幅広い創作活動を網羅しています。リナ直筆のドローイングや手記などに加え、妹島和世と塚本由晴による対談で、リナのもつ不変の魅力にも迫ります。「クリエイションは、人々の自由な世界をつくるためのものでなければならない」というリナのエネルギーに満ちた作品と生涯を、作品集で体感してみませんか。

以下、誌面より抜粋。1968年竣工の「サンパウロ美術館」はピロティで展示空間を地上面と分離させ、地表を人々が利用する広場としました。壁を設けない巨大な展示室は、妹島和世が西沢立衛ととともにSANAAとして設計したルーヴル・ランスをも思わせる空間が広がります。

塚本由晴が、「建物と土地が一体化したエネルギーあふれる建築」と絶賛する1989年竣工の「テアトロ・オフィシナ」。軍事政権への抵抗を示していた劇団、テアトロ・オフィシナのために細長い建物をリノベーションした劇場です。鉄骨の足場を組んだ観客席と、路地のような舞台は劇団の創作を刺激し続けています。

現在は記念館として見学可能な自邸「ガラスの家」の竣工時の写真など、貴重な資料が多数掲載されています。リナの独創的なスケッチの数々も魅力的です。

1951年、ブラジル国籍を取得したリナ・ボ・バルディは国を代表する建築家として活躍しました。

『リナ・ボ・バルディ - ブラジルにもっとも愛された建築家』

和多利恵津子(ワタリウム美術館)監修 
¥4,644(税込) 
TOTO出版刊