見えないものの楽しみとは? 「うらがわ」展は夏にぴったりのドキドキとザワザワを提供します。

  • 文:坂本 裕子
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歌川国芳 『相馬の古内裏』 天保(1830-44)後期 千葉市美術館蔵。幕末浮世絵師国芳の代表作。千葉市美術館では2年ぶりのお目見えです。彼の弟子たちの作品とともに、妖しの世界で魅せてくれます。

千葉市美術館は、浮世絵をはじめ、現代アートの質の高いコレクションで知られています。毎年さまざまな切り口で紹介される所蔵品展では、時代を超えて作品が共鳴し合い、新しい魅力を示してくれます。今年はこのコレクション展を「CCMAコレクション いま/むかし」と命名、テーマを「うらがわ」とした展覧会が開催中です。見えないものを指す「うら」にことよせて、目で見る作品で不可視のものを露わにする、ドキドキの内容です。

草間彌生の秀作がインパクトある始まりの1章は「ひとのうらがわ」。水玉や網目に埋めつくされた作品に彼女の内面を感じます。イケムラレイコや内藤礼の静かな画面には彼らの内省の形を観て自己の内面を見つめる対話を。月岡芳年の『風俗三十二相』の浮世絵全点展示では、妖艶な美女に心のありようを楽しみます。「心」は「うら」という読みも持ちますが、そこに迫るコーナーです。
2章は「かたちの誘惑」。“すける/うらがえる/のぞきみる”をキーワードに、隠れたものを見たくなる、人間の気持ちをくすぐる作品にアプローチします。江戸時代の覗き眼鏡や両面摺りの浮世絵、イメージをガラスに閉じ込めた山口勝弘の作品、360度で印象が変わる立体作品など、多様な表裏の魅力を発見します。
3章「うらがわ拝見」では、江戸から昭和初期の木版画に、華やかな舞台の裏側と役者の個性や素顔、ゴシップといえる事件を描く“バックステージと三面記事”を覗けるコーナー。
そして4章「この世のうらがわ」に潜入です。“怪奇/神秘/あの世”をテーマに、歌川国芳一門の迫力の妖怪や化物、特攻隊員だった経験から戦争批判を化物に表わした池田龍雄のペン画、生と死の深淵を感じさせる宮島達男のインスタレーションで、人知を超えた世界を体感できます。人間の闇を鋭くえぐりだす芳年の作品も、もうひとつの怪奇として示されます。
最終章「制作のうらがわ」は、作品の成り立ちに注目します。現代美術では素材や製法、技術やコンセプトに意識を向け、浮世絵では修復過程で判明した工夫などから、積み重ねられた努力や経験を窺い知ることができます。野村仁の『ムーン・スコア』は実演した音が聴けるライブ感あふれるつくりです。超絶技巧を使ったものをさりげなく置く須田悦弘の彫刻は、会場内にひっそりと隠れているものも。探し出す楽しみは、空間そのものを「うらがわ」に導きます。

子ども向けのしかけやイベントも満載で、親子で出かける夏休みの行き先にぴったり。童心に帰ってこの世のうらがわを覗いてみませんか?

最後の浮世絵師といわれた芳年の代表作は三十二相が揃います。妖艶な美女たちの姿態は時を忘れさせます。 月岡芳年 『風俗三十二相 けむさう 享和年間内室の風俗』 明治21(1888)年 千葉市美術館蔵

超高速で撮影することで捉えられるミルククラウンも、時間とミクロの次元で、普段は見えないものを視覚化したもの。白く美しい姿は、技術を超えてなにか別のニュアンスをまといます。 小川信治 『重なりの庭1』 2016年 千葉市美術館蔵

大骸骨の暖簾をくぐればそこはもう異界。まずは浮世絵の妖怪、幽霊、鬼たちが跋扈します。 左:豊原国周 『歌舞伎座中満久 皿屋舗化粧姿鏡』 明治25(1892)年 千葉市美術館蔵 / 右:4章「この世のうらがわ」の入り口風景

巨大な闇のプールに明滅するデジタルカウンターは、静かに、しかし着実に、円環する生と死を紡ぎます。その圧倒的な空間は、あの世とこの世の境界のようにも感じられて……。 宮島達男 『地の天』 1996年 千葉市美術館蔵

木彫とは思えない精緻で美しい草花。会場にはあとふたつの作品もさりげなく咲いています。探してみてください。 須田悦弘 『芙蓉』 2012年 作家蔵(千葉市美術館寄託)

CCMAコレクション いま/むかし 「うらがわ」

開催期間:~8月27日(日)
開催場所:千葉市美術館
千葉県千葉市中央区中央3-10-8
開館時間:10時~18時(金、土曜日は20時まで)※入場は閉館30分前まで
会期中無休
TEL:043-221-2311
入場料:一般200円
http://www.ccma-net.jp