一卵性双生児のアーティストが生み出す、幻想的な人形アニメの世界「クエイ兄弟―ファントム・ミュージアム」に迷い込もう。

  • 文・内山さつき

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代表作『ストリート・オブ・クロコダイル』の舞台装置。細部まで作りこまれた装置に、制作の秘密を垣間見られます。クエイ兄弟『ストリート・オブ・クロコダイル』よりデコール《仕立屋の店内》1986年 photo©Robert Barker

シュールで幻想的な世界観の人形アニメーションで、カルト的な人気を誇るクエイ兄弟。カフカの文学やチェコのヤナーチェクの音楽、ヤン・シュヴァンクマイエルの映像作品など、東欧文化の影響を強く感じさせる作品を生み出す彼らは、1947年、一卵性双生児としてアメリカのペンシルバニア州に生まれました。フィラデルフィア芸術大学に在学中にポーランドのポスター芸術に衝撃を受け、東欧の芸術に強く惹きつけられることに。その後ロンドンのロイヤル・カレッジ・オブ・アートに進学し、ロンドンを拠点にアニメ、映画製作、CM、舞台美術など様々な分野で活躍を続けます。1986年に代表作「ストリート・オブ・クロコダイル」で、カンヌ国際映画祭短編部門にノミネート、2012年にはニューヨーク近代美術館で個展が開催されるなど、国際的にも高い評価を得てきました。

兄弟が「卓上写真」と表現する人形アニメは、ミニチュアサイズのオブジェやパペットの位置を少しずつ変えながら撮影されるコマ撮りの手法で、1秒間のシーンのために25コマものカットが使われています。美しく不条理な悪夢のような、狂気をはらみながらどこかユーモアも感じさせる独自の世界は、気が遠くなるほどの細かい作業の積み重ねによって作り上げられているのです。

今回の展覧会は、アニメーション制作の舞台装置であるデコールや、日本で目にする機会の少なかった映像作品や舞台美術の仕事、初期の作品制作の原点となったポーランドのポスター作品など、兄弟の世界を総合的に紹介する本格的な回顧展。ミステリアスな映像美の世界に迷い込んでみませんか?

兄弟が敬愛するチェコのアーティスト、ヤン・シュヴァンクマイエルへのオマージュ。『ヤン・シュヴァンクマイエルの部屋』1984年 16mm カラー

デコール《BBC2のアイデント》1991年 photo©Robert Barker

大学ではイラストレーションを専攻していたクエイ兄弟。青年期に描かれた「黒の素描」も展覧会の見どころのひとつ。《カフカの「夢」》1970年 courtesy Tommy Simoens, Antwerp

クエイ兄弟―ファントム・ミュージアム

開催期間:~7月23日(日)
開催場所:渋谷区立松濤美術館
東京都渋谷区松濤2-14-14
営業時間:10時~18時(毎週金曜日は〜20時、入館は30分前まで)
休館日:6月26日(月)、7月3日(月)、10日(月)、18日(火)
入場料:一般¥1000

http://www.shoto-museum.jp