1969年の初版刊行からおよそ50年、世界中で愛されているエリック・カールの『はらぺこあおむし』。
ご存知ですか?このベストセラー絵本の出版には日本が大きく関わっているのです。当時のアメリカでは、ページのサイズを変えたり、穴をあけたりする造本は、絵本としてはコストがかかりすぎて実現できず、編集者が来日時に日本の出版社に相談、その協力によって世に出されたのです。2002年にマサチューセッツ州に開館されたエリック・カール絵本美術館も、日本の絵本美術館の存在がきっかけとなりました。彼の絵本が英語圏以外で最も多く出版されているのも日本です。
そんな日本との関わりが深く、想いも強いエリック・カールの原画や作品を観られる展覧会が、世田谷美術館で開催中です。
初めて絵本挿絵を手がけた『くまさん くまさん なに みてるの?』から最新作『ナンセンス・ショウ』(未邦訳)まで、絵本挿絵の原画の数々やダミー・ブック、制作道具などが一堂に会します。また、原画にとどまらず、立体造形や舞台装飾のデザイン、近年の作品など、アーティストとしての活動もあわせて、その創作のルーツとひみつに迫ります。
やはりすばらしいのは、カラフルな絵本原画です! 愛らしく活き活きとした美しい動植物たちは、彼がアクリル絵具や色鉛筆などで彩色した紙のコラージュで造られています。印刷ではなかなか分からないそのみごとなカッティングと組み合わせの質感は原画ならでは。
もうひとつの注目は、彼の経歴からたどれる、創作に秘められたその背景です。ドイツ系アメリカ人として生まれたカールは6歳からその青少年時代をドイツで過ごします。それはナチス政権により厳しい統制と管理が徹底していた時代。そんな中で彼の才を認めたひとりの先生にこっそり見せてもらったピカソ、マティス、クレー、カンディンスキーなど、当時退廃芸術として禁じられていた絵画の複製が、彼に大きな衝撃を与えました。その美しさや造形の記憶が、後にアメリカに戻ったカールの作品にさまざまな形で表れているのを感じられます。
野球帽をひょいとかぶりお茶目な笑顔を見せる、絵本のイメージそのままにかわいくて魅力的な“おじいちゃん”となった彼の、愛あふれる絵本には、それと同じくらいたくさんの想いが込められているのです。
楽しくやさしい絵本挿絵のすばらしさとともに、この大きなメッセージも受け取りたいところ。それが永遠の絵本の魅力になっているのですから。
「エリック・カール展 The Art of Eric Carle」
開催期間:~7月2日(日)
開催場所:世田谷美術館
東京都世田谷区砧公園1-2
開館時間:10時~18時(入館は閉館の30分前まで)
休館日:月曜
TEL:03-5777-8600(ハローダイヤル)
入場料:一般¥1,200
http://ericcarle2017-18.com/