時は平安末期、平家討伐に燃える源義経がまだ牛若として、修行と応援を請うために奥州へ下ります。彼を訪ねて母の常盤が侍女とともに旅しますが、途中で病気になり、療養していた宿で盗賊に襲われて、命を落とします。夢枕に立った母の最期を知った牛若は、ひとりその宿に向かい、みごと盗賊たちを討ち果たし、母の無念を晴らして、奥州藤原氏の軍勢を引き連れての上京の際に、母の墓前に回向するのでした・・・。
悲劇あり、活劇ありの古浄瑠璃の詞書きとともに、豪華な金彩と鮮やかな色彩に臨場感あふれるシーンが描かれたこの物語は《山中常盤物語絵巻》。江戸初期に活躍した絵師・岩佐又兵衛の全長150m超、全12巻の壮大な物語絵巻です。又兵衛がものした絵巻の中でも最高傑作といわれ、重要文化財にも指定されています。
この《山中常盤物語絵巻》が、先月リニューアルオープンしたMOA美術館の記念第2弾として、一挙公開されています。全巻公開は3年ぶり、なかなか通しで観られる機会は少なく、貴重な公開です。
戦国時代の武将・荒木村重の子と伝えられ、緻密さと大胆さを併せ持つ独特の画風で知られる又兵衛は、伝統的な漢画と大和絵の技術に加え、時代の庶民の風景を活き活きと描き、後世に大きな影響を与えました。ゆえに「浮世絵の祖」ともいわれます。工房を持ち、大きな特徴といわれる豊かな頬と面長の風貌と色鮮やかな画を継承させたこの絵師は、長く歴史に埋もれていましたが、近年、遺された作品の魅力と幅広い才能とが注目され、人気が高まっています。
この絵巻でも、場面ごとに感情を露わにする牛若の表情や、常盤が旅する町の人々の営み、盗賊たちの個性あふれる野趣と殺害の凄惨さ、京に上る牛若と軍勢の豪華な武者姿など、観ているだけで彼らとともにハラハラし、涙し、喝采を上げて、物語世界へと入り込んでしまう魅力たっぷり。なるほど現代のマンガやアニメの先駆ともいわれる楽しさは、新しい低反射のガラスで細部までじっくり観られるのも嬉しい空間です。
会場にはほかに、彼の水墨の名品《柿本人麻呂・紀貫之図》や、大和絵の精緻が光る《伊勢物語》、舞うような立姿が美しい歌仙絵の《女官図》、そして死の直前の《自画像》などの重要文化財、重要美術品の逸品たちも展示、その技量の広さと独自性をより感じさせ、傑作絵巻の誕生に厚みを加えています。
短い展示期間ですが、今回は撮影もOK。いまこの時期にこそ、必見の展覧会です。
「義経伝説全12巻一挙公開
奇想の絵師 岩佐又兵衛 山中常盤物語絵巻」
~4月25日(火)
開催場所:MOA美術館
熱海市桃山町26-2
開館時間:9時30分~16時30分(入館は16時まで)
休館日: 木曜日(休祝日の場合は開館)
TEL:0557-84-2511
観覧料:一般¥1,600
http://www.moaart.or.jp