静かな感動を呼んでいる、 映画『 ニーゼと光のアトリエ』を観ましたか?

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    1940年代のブラジルの精神病院を舞台にして、患者たちの人間性を擁護するために必死に闘った一人の女性精神科医の姿を描いた映画『ニーゼと光のアトリエ』が、静かな感動を呼んでいます。

    この作品は2015年のブラジル映画で、第28回東京国際映画祭(2015)のグランプリと最優秀女優賞を受賞した作品です。監督・脚本はドキュメンタリー出身のホベルト・ベリネール、主人公ニーゼを演じたのはブラジルを代表する女優であるグロリア・ピレスです。彼女が演じたニーゼの本名はニーゼ・ダ・シルヴェイラ。1905年生まれで1930年代に精神科医として活動を開始。暴力的な治療や管理が一般的だった当時、現代の「芸術療法」を導入するなど、先駆的な活動を展開したパイオニアというべき存在です。94歳で亡くなるまで活動を続けたといわれています。

    映画は、ニーゼが新しい赴任先である精神病院に入る場面からスタートします。そこで彼女が目にしたものは、現在では考えられないことですが、脳の前頭葉を破壊するロボトミー手術が最先端医療であり、電気ショックらの治療が当たり前という、暴力的な精神医学の現場でした。病院内で閑職に追いやられたニーゼは、作業療法部門を担当することになりますが、そこで彼女はアトリエをつくり患者たちが自由に造形することや絵を描くことができる場所をつくり出します。するとこれまでただの暴力的な狂人だと思われていた患者たちの内面が明らかになり、豊かな芸術性さえ明らかになってくるのです。しかし、科学的な精神医学を標榜するほかの医師たちはニーゼの発見を認めることをしません。

    物語は希望と絶望が交錯しながら進んでいきます。映画の最後に、実際のニーゼのドキュメンタリー映像が引用されます。孤軍奮闘した彼女の「幕は降りたのよ」という言葉で映画は終わるのですが、私はしばらくの間涙が出て席から立ち上がれませんでした。 人間の理性と狂気、科学と芸術など、この映画は私たちにさまざまなことを考えさせる秀作です。(赤坂英人)

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    『ニーゼと光のアトリエ』

    監督/ホベルト・ベリネール
    出演/グロリア・ピレス、シモーネ・マゼールほか
    配給/ココロヲ・動かす・映画社○

    12月17日(土)ユーロスペースほかにて全国順次ロードショー