
エントランスホールから見た1階フロア。旗艦店らしく、豊富な品揃えのジュエリーとウォッチが重厚なショーケースに飾られる。ブライダルエリアも設置。
現代の高級ウォッチとジュエリーを語る上で、スイス発のメゾン「ピアジェ」はきわめてユニークな存在といえます。複雑時計まで自社製作するマニュファクチュールでありながら、ハイジュエリーの名手としても圧倒的な人気を得たジュエラー。男性にとっても女性にとっても憧れのブランドといえる、世界的な高級ウォッチ・ジュエリーメゾンです。そのピアジェの日本旗艦店である東京の銀座本店が、このほど銀座中央通りに移転オープン。大きな話題となっています。
そもそもの本店ブティックがあったのは、銀座7丁目の交詢社通り。福澤諭吉の提唱で設立された、日本で最初の社交クラブである交詢社の真向かいでした。政財界の紳士たちが行き交う歴史ある場所から、同じ銀座7丁目のメインストリートに舞台を移したことになります。
ピアジェは2015年、フランス・パリの有名なブランドストリートであるリュ・ド・ラ・ペー(ラペー通り)7番地にブティックをオープンさせています。ヨーロッパの華の都で話題を呼んだ優雅さのエッセンスは、アジアを代表する華やかな街でも開花しました。ゴールドで縁取られたブランドロゴが輝くファサードは、ピアジェの理念である「ラディアンス(輝き、栄華)」を象徴するかのような、光輝と気品にあふれています。
エントランスから迎え入れられると、1階に揃えられたジュエリーとウォッチのコレクションを堪能できます。また、男性にも女性にも愛されるブランドの魅力ともいえる、ブライダルエリアも設けられました。吹き抜けの天井から下がるシャンデリアを眺めながら階段を上ると、よりゆったりとコンプリケーション(複雑時計)を含むウォッチや、ハイジュエリーのコレクションを品定めできる空間。VIPルームも併設されています。
日本におけるピアジェの新時代を告げる銀座本店オープンを記念して、ここにしかない特別限定モデルが登場したのも大きな話題です。メンズウォッチの「ピアジェ アルティプラノ」からは、30本だけのスペシャルピースがリリースされました。秀逸なブラウン仕上げ“青海波”ダイヤルは、いまここでしか手に入らない唯一無二の逸品です。レディス向けには「ピアジェ ローズ」「ポセション」のコレクションから限定品が発売されます。

黒を基調としたシックなファサードが、華やかな銀座中央通りに映える。新たなピアジェ銀座本店は、SHISEIDO THE GINZAや魯山人ゆかりの美術商・黒田陶苑と同じ7丁目でも注目の場所。

吹き抜けを彩るのは、ジュエリーの名コレクション「ピアジェ ローズ」をモチーフにしたシャンデリア。階段を上った2階にはコンプリケーション(複雑時計)をはじめとする逸品の展示空間があり、VIPルームも併設する。

オープンを記念し、銀座本店だけで販売される「ピアジェ アルティプラノ」の特別モデル、30本限定の通し番号入り。文字盤は波を扇状に描く“青海波”を彫ったラッカー仕上げ。18Kピンクゴールドのケースに、430P 自社製極薄手巻きムーブメントを搭載する。¥2,106,000。
伝説的な人物、イヴ・ピアジェが明かすダリとウォーホルの素顔。

創業から数えて4代目、イヴ・ピアジェは1942年生まれ。製造技術とデザインに秀でた20世紀後半のピアジェを躍進させた立役者は、アーティストらとの交友でもよく知られている。
銀座本店のオープンに合わせて来日したのが、創業家の4代目として、ピアジェ・インターナショナルの会長を務めるイヴ・ピアジェ。時計とジュエリーの製作技術に精通する一方で、ピアジェのアーティスティックな側面を確立した精神的支柱でもあります。その伝説的人物は、世界的なアーティストたちと交友し、またそのクリエイションをともにしてきました。そんな芸術家のひとりがサルバドール・ダリ。奇想で知られる芸術家は1965年頃、“ダリ金貨”を創作しようとしていました。イヴ・ピアジェは次のように語ります。
「1ダリ、1/2ダリという通貨です。それを金貨でつくろうとしていた。片面には百合の花、もう片面には彼の妻のポートレートを刻印。ダリは王のように自分を見なしていたのです。ピアジェはそのダリ金貨で、腕時計をつくりました。カフリンクスや指輪、ブレスレット、ネックレスも」
ピアジェは“芸術的な時計づくり”を超えて、本当の芸術品「ダリ ドール」をつくってしまったのです。

“ダリ金貨”を腕時計にした伝説的な「ダリ ドール」。コインをスライスして極薄ムーブメントを収めるという離れ技を実現した。通常は文字盤が隠されている状態に。

「ダリ ドール」のレディスウォッチ。チェーンブレスレットのように連ねた金貨のひとつに、極薄ムーブメントを搭載した時計本体が配されている。
ピアジェのコレクターとしても知られるアンディ・ウォーホルもまた、イヴ・ピアジェの友人でした。
「ウォーホルに初めて会ったのはニューヨークです。彼自身が発行する雑誌『インタビュー』の製作に熱中していた頃です。謙虚な人、という印象でしたね。彼がその後、こんなに偉大なアーティストと呼ばれるようになるとは、正直思っていませんでした」
そもそもウォーホルは、ニューヨークでピアジェの販売代理人を務めた人物の友人だったそうです。
「ウォーホルはピアジェにとって、非常によい顧客でした。彼は、ピアジェそのものに執着していたのです。ダリはピアジェからの報酬に執着していましたが(笑)。いずれにせよ、このふたりに会えたのは大変幸運な出来事でした。アーティストは一般の人より興味深いのです。ピアジェ社内の職人やデザイナーも同様ですね。時には自由にやらせることで、そこから生まれてくるものがあるのではないでしょうか」
アンディ・ウォーホルは、10本以上もの高額なピアジェの腕時計を所有していたことが知られています。ピアジェは、芸術家に愛される腕時計でもあるのです。

アンディ・ウォーホルが1973年に購入した通称「アンディウォッチ」。1950年代にピアジェが開発した、丸型でも角型でもない独特なフォルムがアーティストの感性を捉えたのだろう。

1974年製の「インゴットウォッチ」。時計本体が金塊に格納される仕様も、ピアジェが誇る極薄手巻きムーブメント“キャリバー9P”の存在なくしては実現できなかったものだ。
「初めて日本に来て、この銀座の街を目にしたのは1961年です。大変印象深く、その後も訪れるたびに感動してきました。こんなにスピーディに変わっていく街は、ヨーロッパではありえないことです。私にとっては、夢の街ですね」と、彼は微笑みを浮かべます。
イヴ・ピアジェはスイスのヌーシャテル大学で時計製造工学の学位を取得し、アメリカ宝石学協会(GIA)宝石鑑定士の資格を保有しています。つまり理系の人間なのですが、その彼が率いたピアジェは、高い技術力の成果として誕生した極薄ムーブメントを用いて芸術的な腕時計をつくってきました。ちなみに園芸ファンによく知られたバラの品種「イヴ・ピアジェ」は、彼に由来するものです。技術と芸術が支え合い融合する姿は、イヴ・ピアジェとピアジェに共通するものではないでしょうか。(文:並木浩一 撮影:大瀧 格)
ピアジェ 銀座本店
東京都中央区銀座7-8-5
TEL:03-3569-0160(直通)
営業時間:11時~19時
www.piaget.jp