普段着としては、なかなかお目にかかれないものの、芸術性と伝統の深さで世界的に有名な日本の「着物」。その中で特に人気が高いのが、江戸時代の扇絵師・宮崎友禅斎に由来する「友禅染」です。最近では、小池百合子東京都知事が、リオデジャネイロ・オリンピックの閉会式で披露したのが、タンチョウヅル柄をあしらった友禅でした。
この友禅には、いろいろな種類がありますが、江戸の街の町人文化を背景とした、洒落たセンスを表現しているのが「東京友禅」です。
横須賀美術館では、横須賀の港の風景を、友禅の技法で表現した東京友禅の染色作家・中村光哉の作品を集めた展覧会を開催します。人間国宝の中村勝馬の長男でもある中村は、ろう染を経て、80年代からは、技法を友禅に転換。横須賀市の海を臨む高台に居を移して、海や港、船をモチーフとした優美で個性的な友禅を生み出し、新境地を開きました。浮かぶ漁船や漁具などの海をめぐるデザインは、佐島や長井といった横須賀の海辺、小網代や油壷など三浦半島西岸のスケッチをもとに完成したものでした。
展覧会では、横須賀や三浦を描いた友禅作品に加え、水戸市立博物館や東京国立近代美術館などが所蔵する、中村の「ろう染め」作品など、約80点の屏風やパネルを展示。都会的でモダン、そして高度な技術に裏打ちされた創作世界を紹介します。また、父親・勝馬の着物も併せて展示。格調高い、伝統的な文様表現を追求した父と、その枠に囚われない息子の作品を対比することで、東京友禅の伝統と歴史の移り変わりを俯瞰できるでしょう。そのほか、中村の陶芸やネクタイのデザインなど、あまり知られていない染色以外の、大胆で面白い意匠の数々も展示されます。
中村光哉の作品を見ると、友禅がモダンで都会的なイメージの現代美術作品にも見えてくるから不思議です。この展覧会は、伝統的で高級な着物を、もっと身近に感じてみるのに、良い機会かもしれませんね。(幕田けいた)
横須賀ゆかりの友禅作家 中村光哉展
開催期間:2017年2月11日(土・祝)~4月16日(日)
開催場所:横須賀美術館
横須賀市鴨居4-1
開催時間:10時~18時
休館日:3月6日(月)、4月3日(月)※2月12日(日)は市制記念日による無料観覧日。
入場料:一般¥800、中学生以下無料