明治末期から、大正・昭和を通して、日本の洋画界を牽引してきた梅原龍三郎。
その豪快な性格から、「画壇のライオン」とまで称された彼は、若き日にルノワールに会い、その影響を大きく受けたことでも知られています。
ルノワールを師と仰ぎ、制作現場を見て、対話からも多くを学び、帰国後も手紙での交流を続けた梅原の作品は、しかし晩年になると、激しい筆致と色彩、平面的な表現、金箔を使用した作品など、師とは離れ、独自の世界に到達しています。
東京・三菱一号館美術館では、西洋の模倣を超えて、独自の油彩画を確立した梅原龍三郎の足跡を、あまり公開されたことのない作品を含めて追う展覧会が開催中です。
梅原は、熱心な蒐集家でもありました。そこには、ルノワールだけはなく、ドガ、ピカソやルオー、マティスからギリシャ彫刻、日本の大津絵に至るまで幅広く、その確かな鑑識眼と旺盛な探究欲がうかがえます。
生前の梅原が所蔵していたこのコレクションも可能な限り集められ、ルノワールとの書簡も公開、梅原がいかに幅広い知見をもって自身の表現を模索していったのか、その中で師・ルノワールとは、彼の中でどのような存在だったのかを改めて見直す新しい切り口になっています。
帰国の際にルノワールから贈られた《バラ》は、1919年ルノワールの訃報を受け、その弔問の渡航費用のために自宅とともに売却されました。そんなエピソードを持つ作品や、遺族の弔問の際に彼のアトリエで梅原が見た、ルノワールが描いた3点の《パリスの審判》のうちの1点と、1978年に持ち込まれたもう1点(三菱一号館美術館寄託)、それを模写した梅原自身の作品を並べて観られる貴重な機会でもあります。
ルノワールが師であるという梅原。いったんそこから距離を置き、ルノワールとの関係を追い直した時、晩年に向けて見えてくるのは、「描くことの幸せ」、あるいは「幸せを描くこと」。
表現は大きく変わろうとも、ルノワールとの絆、師の教えはそんな形で梅原の中にずっと息づいているのです。
平成のいま、ふたたび師へ手紙を送っているかのように、梅原龍三郎の作品の魅力が、ルノワールとの関係を通して、改めて近代絵画の東西交流の中に立ちあがってくる展覧会です。(坂本 裕子)
「拝啓 ルノワール先生―梅原龍三郎に息づく師の教え」
~2017年1月9日(月・祝)
開催場所:三菱一号館美術館
東京都千代田区丸の内2-6-2
開館時間:10時~18時(祝日を除く金曜、1月4日-6日は20時まで) 入館は閉館30分前まで
休館日: 毎週月曜日(祝日の場合は開館)、2016年12月29日(木)~2017年1月1日(日)
TEL:03-5777-8600(ハローダイヤル)
入館料:¥1,600
http://mimt.jp/renoirumehara/