「描き続けたまえ、絵画との契約である」
本人の言葉そのままに、生きることと描くことを同位にした生涯を送った山田正亮。
2010年に没した山田の画業を回顧する、初の包括的な個展が東京国立近代美術館で開催されています。
戦後、自らの記憶に残る静物画を繰り返し描き、やがてその形態を解体していった結果、「Work」シリーズとしてストライプの作品をやはり繰り返し描き続けた画家の遺した点数は、なんと5000点にものぼるのだとか。しかも、そのすべてを自ら写真に撮り、記録していたという驚くべき業績。初公開される「制作ノート」と、選りすぐりの主要作219点から山田の画業を見直すものです。
当時の画壇の流れに背を向け、ひたすらに自身の色彩と構成を追求し続けた山田は、その偏屈さから、さまざまな衝突などの逸話でも知られています。
今回は没後6年を経て、そうしたスキャンダルからも距離を置き、研究が進められてきた制作ノートや、5000点の実作品の科学的分析も含めた成果とともに、改めて「画家・山田正亮」とは何者だったのかに迫ります。
展示空間も注目です。
山田の繊細な色彩の重なりや、ストライプのラインの質感がよりしっかり観られるように、作品のタイプに合わせ、各部屋ごとに最新の照明がさまざまに工夫されています。
また、あるところでは年表のようなしつらえの中に実際の作品を入れ込み、あるところでは壁いっぱいのインスタレーションのように作品が配置され、それぞれとても丁寧に考えられており、作品をひきたてるとともに、空間自体がかっこよく造られています。
ストライプばっかり、と漫然と通り過ぎませんよう。
ひとつひとつに使用されている色数は驚嘆もので、その重ねあわせによって生まれてくる画面は、みごとなハーモニーを持ち、単なるラインや色面にとどまらない独特の風情と表情を持って、わたしたちに語りかけてきます。
一見シンプルな矩形も、実は細やかに色彩の変化が取り込まれており、コンセプチュアルを超えて、詩的ですらあります。
偏執的ともいえる、その画業と遺した記録・・・。「描くこと」に呑まれた狂気とともに、魅せられ、追求せずにいられなかった切ないほどの想いが伝わってきます。
戦後日本の前衛アートは、近年海外でも注目されており、山田の個展も今年ロンドンで開催され、その見直しが進んでいます。今後、世界へ発信していく第一歩として記念的な展覧会であることは間違いありません。(坂本 裕子)
「endless 山田正亮の絵画」
開催期間:2016年12月6日(火)~2017年2月12日(日)
開催場所:東京国立近代美術館
東京都千代田区北の丸公園3-1
開館時間:10時~17時(金曜は20時まで) 入館は閉館30分前まで
(毎週月曜日休館※ただし1/2と1/9は開館。12/28~1/1、1/10は休館)
TEL:03-5777-8600(ハローダイヤル)
入館料:一般1,000円
(当日に限り同時開催の「MOMATコレク ション」(4F-2F)、
「瑛九1935-1937 闇の中で「レアル」をさがす」(2F ギャラリー4)も観覧可能)
http://www.momat.go.jp/