東京都内にあるマツダの新車ディーラーが大きく変貌しています。「自動車ディーラーのリニューアルなんて日常茶飯事、どこでもやっているんじゃないの」と思われますが、個性的なディーラーの店舗は非常に少ないのです。なぜなら自動車ディーラーはメーカーによるある一定の基準や規則(CIと呼ぶ)を取り入れないと営業できないのです。インテリアのデザインやロゴの大きさ、接客スペース、修理ピットの規模などメーカーが決めたCIはすべての店舗に踏襲されます。これによって新車のディーラーはどこも同じサービスを受けることが出来るのです。
ディーラーはお客さまがそのブランドに触れる一番の場所。そう考えたマツダは関東マツダというディーラー網とともに一部の店舗を大きく変貌させることにしました。そのデザインの指揮をとったのは、マツダの常務執行役員にして、デザイン・ブランドスタイル担当の前田育男さん。新しいマツダ車のデザインは彼がすべて監修しています。前田さんはクルマをデザインするだけでなく、マツダの伝統や個性、そしてデザインを顧客に伝えるため、東京都内のディーラーを変革することに決めたのです。そのパートナーとして選んだのがPenでもおなじみのサポーズデザインオフィスの谷尻誠さんと吉田愛さん。広島出身(マツダの本社は広島)の建築家にディーラーをデザインしてもらうことで、いままでの画一的なディーラーを大きく変えようとしています。
最初は目黒区の碑文谷にあるディーラーでした。まわりに高級外車ディーラーが立ち並ぶこの一角に他には負けないプレミアムなディーラーをつくる、ただし敷居は上げずに。ということで生まれたのが目黒碑文谷店。ユニークなのは「ブランドガレージ」。駐車場の一角にあるこのスペースは納車のセレモニーを行うためのものですが、前田さんが考える上質な自動車趣味を味わえる空間。なかなか心地のいいシックな空間です。「さすが、サポーズデザインオフィス、いいものつくるな」という感じでしたが、じつは前田さんはさまざまな注文を出していたそうです。
「普通の建築家は設計図を書いて、模型をつくってクライアントにOKをもらい着工する。そんな簡単な流れじゃ僕は納得できなかったんです」と前田さん。サポーズデザインオフィスがプレゼンのために仕上げた高田馬場店の設計図を本社の自動車設計用高精度CADに入力。実際の店舗をプロジェクターで再現し、24時間365日、どんな空間になるのかをシミュレート。太陽光の差し込みによる店の明るさや展示車の見え方までサポーズとともに調整し、ようやく新店舗が完成したそうです。
「マツダは自動車メーカーとしては決して大きな規模ではありません。マツダの考える本当の姿をふらりと立ち寄って感じてもらえれば」と前田さん。「クルマを買わなくてもいいんです。むしろテラスのソファで読書をしながらまどろんでほしい」。マツダのデザイン改革の延長にあるディーラーの刷新。マツダの新しい取り組みに期待が高まります。(Pen編集部)
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