90年代の東京では、厳選されたシネアストたちの名作が封切りされるミニシアターブームが起こっていました。クチコミによって観客が増えれば、1本の作品が何週間にも渡ってロングラン上映されていた時代。今年の冬、そんなミニシアター全盛期に映画館を賑わせた2本の映画が、デジタルリマスター版で公開されます。
12月に公開されるのは、95年にロングランとなった『スモーク』。現代アメリカ文学を代表する小説家、ポール・オースターが自身の短編小説をもとに脚本を書き、香港出身のウェイン・ワンが監督をした、ブルックリンの煙草屋で繰り広げられる愛と友情と嘘をめぐる物語です。当時の公開劇場は、恵比寿ガーデンシネマ。惜しまれつつも一度は休館し、YEBISU GARDEN CINEMAとして蘇った映画館での再上映はうれしいニュースです。
そしてもう1本が、07年にこの世を去った台湾の巨匠、エドワード・ヤン監督の『牯嶺街少年殺人事件』。60年代の台北を舞台にした青春群像劇は、BBCが選出した「21世紀に残したい映画100本」に台湾映画として唯一選ばれるなど、傑作として語り継がれてきました。日本では25年前の公開以来、DVD化もされていなかった伝説の作品が、東京国際映画祭(10月25日~)でついに再上陸。プレミア上映となる映画祭のチケットは争奪戦となりましたが、エドワード・ヤンの没後10年となる来年には、劇場公開が予定されています。
シネコン全盛期の近年、個性的なプログラムで人気を呼んだミニシアターが歴史に幕を下ろすことも増えました。2本のデジタルリマスター版が公開されるこの機会に、かつての“ミニシアター系”の香りを届けくれる名作に劇場で触れてみてはいかがでしょうか。(細谷美香)