『アベンジャーズ』に『スーサイド・スクワッド』……。最近のエンタメ映画業界では、海外のスーパーヒーローチームが幅を利かせています。もちろん自国にも、いろいろなヒーローはいますが、日本人はなぜ、異国情緒たっぷりの英雄軍団に、心を惹かれてしまうのでしょうか。
実は日本人の異国ヒーロー趣味は、いまに始まったことではありません。幕末に、そんな異国ヒーローの大ブームを巻き起こした絵師・歌川国芳(1797~1861)の展覧会が、渋谷の太田記念美術館で開催中です。本展『国芳ヒーローズ~水滸伝豪傑勢揃』では、中国の古典「水滸伝」を題材にした武者絵「通俗水滸伝」シリーズの、現在、確認されている七十四図のうち、七十三図を一挙に集結させました。
「水滸伝」は、明代の中国で書かれた伝奇歴史小説。不正がはびこる世の中で、世間からはじき出された108人の好漢が、梁山泊と呼ばれる要塞に集まり、悪徳官吏を打倒し、救国を目指す冒険物語。まさに中国版『アベンジャーズ』であり、『スーサイド・スクワッド』なのです。勇猛に戦う武将や知的な軍師、華麗な衣装をまとった女傑が、イマジネーション豊かな構図で、思い思いのポーズをキメるイラスト連作「通俗水滸伝」シリーズ。「猫」や「妖怪」などの題材を、ユーモラスで奇抜な筆致で描くことで知られている国芳の最初のヒット作は、こんな血湧き肉躍るワイルドな武者絵でした。のちの国芳の、発想の豊かさやアレンジの手腕は「水滸伝」が原点だったのです。
およそ190年前の、国芳の出世作「通俗水滸伝」は、江戸っ子たちの爆発的人気を得て、子ども向けの双六などのキャラクター商品から、女性を豪傑になぞらえた美人画などの派生グッズを生み出し、果ては彫り物(刺青)ブームに発展するほど。そんな熱狂の様子は、まるで現代のヒーロー映画やゲーム、コミックの大ブームにも通じます。
ほぼ全図が揃う本展は、めったにない機会です。ヒーロー映画ファンは、自分の熱狂のルーツが、幕末の日本文化にあったことを確認する千載一遇のチャンスではないでしょうか。(幕田けいた)
『国芳ヒーローズ~水滸伝豪傑勢揃』(後期)
開催期間:10月1日(土)~10月30日(日)
開催場所:太田記念美術館
東京都渋谷区神宮前1-10-10
開催時間:10時30分~17時30分(入館は17時まで)
休館日:10月3・11・17・24日
入場料:一般¥1,000
http://www.ukiyoe-ota-muse.jp/