輝きに満ちた光景を生涯描き続けた印象派を代表する画家の一人、ピエール・オーギュスト・ルノワール(1841~1919)。幸せがあふれ出すような色彩のキャンバスに魅了されるファンも多いのではないでしょうか。そのルノワールの大展覧会が国立新美術館で始まりました。オルセーとオランジュリー両美術館の所蔵から、100点を超える作品がこぞって来日。初期から最晩年まで、肖像や風景、風俗……と、全10章で構成され見応え十分です。
なんと言っても目玉は、初来日となる『ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会』(上段写真)。モンマルトルの野外ダンスホールで過ごす人々を描いた作品は、誰もが「見たことがある!」と思うほどの代表作です。画面からは人々の動きが感じられ、話し声までもが聞こえてくるよう。19世紀のフランス人たちはこんな風に楽しんでいたのね、と優雅な空気感が伝わってきます。そしてキラキラと輝く木漏れ日が、賑やかなムードをいっそう引き立てます。
また、「私は人物画家だ」と自負したように、やはりルノワールといえば肖像画。生涯を通して家族や友人たちをモデルに描き続けました。『ピアノを弾く少女たち』(下段写真、以下同)では、うっとりとするような色合いの中に少女の柔らかな肌や髪が溶け込みます。画家の追究した理想美が形となった、まさに円熟期の一枚です。
1880年代にイタリアを旅したルノワールは、ラファエロらの古典絵画に影響を受け、印象派のぼんやりとしたタッチから『ジュリー・マネ』あるいは『猫を抱く子ども』の顔のように、はっきりと輪郭線を描くようになった時期があります。このように変化していく作風を辿りながら絵を眺めるのも、今回の展示の醍醐味でしょう。
さらに注目したいのが『草原の坂道』をはじめとする風景画です。肖像画の人気に押され気味ですが、まるで見る者をキャンバスの中へと誘うように美しい風景が広がり、自然を愛したルノワールのまた異なる一面が見えてくるようです。
そして最晩年に制作された『浴女たち』。ふくよか過ぎるほどの裸体が迫力満点。この時期のルノワールは車椅子に座り、リウマチに罹った手指は自由を奪われていたといいます。手に絵筆を括りつけながらも描いた、画家の追い求めた世界。それはきっとこの女性たちのように、何にも縛られない自由闊達な「美」だったのかもしれません。
会場を歩くうちに、知っているようで知らなかったルノワールの姿が見えてくるようです。この機会に見どころたっぷりなルノワールの深淵に触れてみませんか?(中村志保)
オルセー美術館・オランジュリー美術館所蔵 ルノワール展
会場:国立新美術館 企画展示室1E
東京都港区六本木7-22-2
開催期間:2016年4月27日(水)〜 8月22日(月)
開館時間:10時〜18時(入場は閉館の30分前まで)
※金曜日、8月6日(土)、13日(土)、20日(土)は20時まで
休館日:毎週火曜日
※5月3日(火・祝)、8月16日(火)は開館
http://renoir.exhn.jp