日本のカルチャーに傾倒したクリエイターは世界中に存在しますが、長山洋子のデビュー曲や美輪明宏の『黒蜥蜴の唄 』が鳴り響く、こんなにも刺激的で奇妙なスペイン映画にははじめて出合いました。監督を務めたカルロス・ベルムトは、日本の漫画、アニメ、映画への偏愛から、『ドラゴンボール』にオマージュを捧げたコミックを出版したこともある、イラストレーター出身の30代。江戸川乱歩や安部公房を愛読し、『美少女戦士セーラームーン』『魔法少女まどか☆マギカ』から刺激を受けて、この『マジカル・ガール』を撮ったと言います。その影響は全編にちりばめられていますが、監督の趣味をパッチワークしただけの作品にはなっていないのがすごいところ。一枚のメモが手の平から消えるシーンから幕を開け、先読みできない展開と不思議な色香を漂わせる映像が、いくつもの映画の魔法を巻き起こしていきます。
白血病で余命わずかな少女、アリシアは日本のアニメ『魔法少女ユキコ』の大ファン。失業中の父親は、彼女のために高額なコスチュームを手に入れようとします。この願いが心と体に傷を持つ女性バルバラと、秘めたい過去をもつ元教師ダミアンを引き寄せていきますが……。
『マジカル・ガール』というポップで愛らしいタイトルを持つこの映画は、入口と出口がまったく違う作品になっています。無関係に見えた人々の物語が次第につながっていきますが、パズルのピースがぴたりとハマるような快感を与えてくれるわけでもありません。
自分のために、ときは愛する人のために。誰しもがもつ欲望の連鎖が、取り返しのつかないほどの悲劇を生んでいく――。その混沌とした皮肉な現実こそが、私たちが生きる世界そのものなのだと突きつけられている気分になり、観終わる頃には若干病みそうになりました。それほどまでに人間のダークサイドや無意識の悪意を容赦なく暴いていく残酷な映画ですが、観る者を惹きつけてやまない妖しく艶やかな闇がぽっかりと口を開けている、魅惑的なフィルム・ノワールでもあるのです。
スペインが生んだ巨匠といえば、ルイス・ブニュエル、ペドロ・アルモドバルといった耽美的な変態性をもつ監督の名前がすぐに思い浮かびます。彼らに続く存在になるに違いない若き才能、カルロス・ベルムト。この1本で、日本の観客にとっても彼の名前は忘れられないものになることでしょう。(細谷美香)
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『マジカル・ガール』
原題/Magical Girl
監督/カルロス・ベルムト
出演/ホセ・サクリスタン、バルバラ・レニー、ルイス・ベルメホ
2014年 スペイン映画 2時間7分
配給/ビターズ・エンド
3月12日よりヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて公開。
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