アニー・リーボヴィッツによる肖像写真展「WOMEN:New Portraits」が現在、東京・東雲のTOLOT/heuristic SHINONOMEで開催中です。 これは、リーボヴィッツが1999年から作家のスーザン・ソンタグ氏とともにスタートしたプロジェクトで、アニーが当時出版し絶大なる人気を博した写真集『Women』に端を発したものです。
内容は世界各地域の女性を撮影し、現代社会における女性の役割、そして彼女たちのこれからを映し出したもので、世界的金融機関で現代美術を支援し続けているUBSの全面サポートのもと、世界10都市を巡回する予定。
ジェンダーの不平等に意義を訴えるリーボヴィッツはこのムーブメントの先駆者です。それは写真という翻訳という手段を介さない国境を超えたアートによって、強いメッセージとともに私たちの元へ届きます。被写体はアーティスト、ミュージシャン、経営者、政治家、作家、慈善活動家など、様々な分野で世界的に活躍する女性たちです。
「私は、コンセプチュアルアートを行っており、写真はその手法です。そのためには、目の前にいる人の固有性を撮ることが大切。ステレオタイプにはまらず、類型的に物事を考えず、その人を直接感じ、その人の『場』とは何かを問い掛けるような、そんな写真を撮るようにしています。このプロジェクトはもともと尊敬している女性を撮りたいという気持ちからスタートしたものでもあります」
リーボヴィッツに選ばれた女性たちは実に多岐にわたっており、そして、一枚一枚の写真に関しての彼女による解説もまた、とても興味深いものになっています。まず目につくのは、伝説的なローリングストーン誌の表紙を飾った一枚。裸のジョン・レノンがオノ・ヨーコを抱擁している写真で、リーボヴィッツがこれを撮影した数時間後にジョン・レノンが殺害されたというのはあまりに有名なエピソード。
「ジョン・レノンはとても穏やかな、ノーマルな人でした。しかし、ヨーコさんのことは、私はすぐに理解できませんでした。その後、ヨーコさんひとりの写真も撮りました。とても才能と独創性のあるアーティストで、私がロシアに行って初期の仕事を彼女に見せる機会があり、それから親しくなりました」
ほかにもエリザベス女王やアウンサン・スーチン氏も被写体になっています。
「私が女王に勇気を出して『王冠を脱いで頂けますか?』とお願いすると、彼女は『まあ、何をおっしゃるの?』と、言いつつも30分間くらい彼女は王冠を脱ぎ、とてもリラックスした感じで座ってくれていました。また、スーチンさんを撮影するときもとても大変でした。とにかく時間がなく、5分間しかないと言われましたが、たとえ5分であっても、私はどうしても彼女を撮りたかったんです」
リーボヴィッツが切り取った、躍動的な女性たち。
さて、意外に日本びいきだというリーボヴィッツ。
「父の仕事の関係もあったんですが、私も日本の企業から奨学金を受けていました。何回も日本に来てますよ。私の1号目のカメラは、日本で買ったんです。富士山にも頂上まで登りました(笑)。登るにつれてカメラがどんどん重くなっていったんです。それを感じた時に、これからカメラというものを自分の身の内に大事に取り込んでいかないといけないと思ったことを覚えてますね」
つい最近撮影したのはマララ・ユスフザイだそう。時に水のように静かに、時に躍動的かつダイレクトに。彼女たちがリーボヴィッツのレンズにむける表情は、実に様々。しかし、リーボヴィッツが切り取った彼女たちは、たとえただそこに座っているだけであっても、年齢、国籍、人種に関わらず、常にエモーショナルなのです。
確かに、リーボヴィッツほどのフォトグラファーであれば、当然のことながら著名な人々のポートレートを撮る機会に恵まれます。しかし、一瞬にして見た人の心を鷲掴みにし、目が離せなくなってしまう。そんな魅力が彼女の写真にあります。したがって、一度リーボヴィッツのポートレートを見た人は、次は何のインフォメーションもなくてもすぐに、それが彼女の作品だとわかるはずです。
「現代の女性はまさに多様化しています。たとえば女性像ということば一つとってみても、決まり切ったものはないのです。だからこれはこの先、ずっと終わることのないプロジェクトになります」
ジェンダーやステレオタイプを超えて、生きているものはすべて、無二のオリジナリティのあるかけがえのない存在。そんなメッセージが一枚一枚の写真には込められています。
今回行われている写真展では最近撮影された写真のほか、プロジェクト初期のオリジナル作品や未発表の写真も含まれており、アニーファンのみならず、すべてのアートワークに関わる人、必見です。(大嶋慧子)
WOMEN:New Portraits アニー・リーボヴィッツ
会期:2月20日(土)~3月13日(日)
会場:TOLOT/heuristic SHINONOME
東京都江東区東雲2-9-13 2F
開館時間:11時~19時
入場無料
www.ubs.com/annieleibovitz-jp
※会期中の毎週末、ファミリーワークショップが開催されます。
詳しくはこちらから→https://www.ubs.com/microsites/annie-leibovitz/ja/family-workshop.html