マリアを演じるマリア・メルセデス・コロイは、演技未経験とは思えない存在感を発揮しています。映画は昨年のベルリン国際映画祭で銀熊賞を受賞。
メキシコ、ベリーズ、ホンジュラスに囲まれた中南米の国、グアテマラ。その火山地帯の麓で父母とともに暮らす17歳の少女マリアが主人公です。貧しい農村で、マヤ系先住民である一家は特に貧しいのですが、コーヒー農園の要職にあるイグナシオがマリアを結婚相手に欲しているため、かろうじて農園での仕事と簡素な家を与えられています。ところがマリアはいつも浮かない顔。親が決めた結婚に納得できず、また同じコーヒー農園で働くペペという青年に心を寄せているのです。やがてマリアの妊娠が発覚します。母のフアナは、一度は堕胎させようとしますが、娘とお腹の子を守ろうと覚悟を決めます。
新たな命をお腹に宿したマリアと、その娘を守るフアナ。マリアは胸に秘めるタイプ、フアナは言動で表すタイプという違いがありますが、ふたりの母としての優しさや逞しさや情念が圧倒的です。映画はまた、一部の先住民が公用語であるスペイン語を話せないがゆえに、就労の機会を阻まれ、行政サービスを受けられず、人権も守られないという、重いテーマも描いています。マヤ系住民の多い土地で幼少期を過ごしたというハイロ・ブスタマンテ監督が提示する、グアテマラのひとつの現実に考えさせられ、そしてマリアたち一家の笑顔を見たいと思うのでした。（Pen編集部）
母フアナ（右）役は、グアテマラで舞台を中心に活動しているというマリア・テロン。主人公は彼女といってもいいほど、おおらかな包容力が印象に残ります。
マリアたちは民族衣装を纏い、またマヤ系先住民の風習も映画では描かれています。カラフルなドレスや髪飾りの美しいこと！
© LA CASA DE PRODUCCIÓN y TU VAS VOIR-2015
『火の山のマリア』
原題／Ixcanul
監督／ハイロ・ブスタマンテ
出演／マリア・メルセデス・コロイ、マリア・テロンほか
2015年 グアテマラ・フランス合作映画 1時間33分
配給／エスパース・サロウ
2月13日より岩波ホールほかにて公開。