写真家の桐島ローランド氏による、女性のヌードにプロジェクションマッピングを映すという画期的な写真展が、東京・新宿のアイデムフォトギャラリー「シリウス」にて開催されています。
プロジェクションマッピングとは、プロジェクターのような映写機器を用い、パソコンで作成したCG映像などを映し出す技術のこと。映像が投影される対象はさまざまですが、動きのない静物に映されるのが一般的です。それを今回、桐島さんは女性のヌードに映し出しています。多様な光が映し出されたモデルには桐島さんが感じる「光」が表現されており、「ライティング」という枠を超え、計算し尽くされた美しさとともに、未知の世界を垣間見るような独特の緊張感が感じられます。
「このギャラリーは一般に公開しており、応募して規定に沿えば展覧会を開くことができます。ただ年度の頭はその年に年男となるフォトグラファーが行うので、年男の僕にお声掛け頂きました。個展自体が久々ですし、せっかくなら撮り下ろしで構成したいと思いました」と、桐島さん。
「昨年、プロジェクションマッピングを使った仕事がちょうどありました。その時は2~3枚しか撮れなかったのですが、すごく面白く、機会があったらその延長線上でもっと突っ込んだものをやりたいなと思っていました。その時の撮影もヌードだったのですが、テイストは今回のものとはまったく違います。今回は、昔行って感動したモロッコのスークの光がヒントです。ストレートなストライプの光がきれいで、ずっとその光をつくってみたかったので、自分でストライプの型やレースをつくって、それをヌードに転写してみました」
強烈な光と影が映された、無機的で神秘的な裸体。
強烈な光と影が映し出された裸体の女性は、セクシーというより無機的で神秘的。桐島さんいわく「まったくエロくないヌード」です。
「感動したモロッコのスークの光を再現するのに、最初は照明でつくった強い光を当ててみたのですが、どうしてもエッジが甘くなってしまう。でも、プロジェクターだったらできるのかなと思い、自分でストライプをフォトショップでつくってみたら、うまくいきました。ただプロジェクターの問題点として、ある程度明るくないといけないのと、クオリティが高くないとピクセルが映り込んでしまう。本当は4Kのプロジェクターを使いたかったんですが、予算的に合わないことと時間もありませんでした。今回は、ある意味テストのような要素もありましたね。でも成功したので、今後もさらに撮ってみたいですね。キネクトっていうマイクロソフトで出してる3Dのセンサーを使うと、リアルタイムでモデルのポーズを察知して、それに合わせてプロジェクションできるんです。次回はそれも使いたい。光を着せるような新しい遊び方を発見したような気持ちです」
過去には、デジタルカメラをもっとも早く日本で撮影に取り入れ、3D撮影のビジネスにもいち早く着手するなど、写真家という枠を飛び越えてさまざまな分野でチャレンジを続ける桐島さん。常に失敗や批判を恐れずに、次はよりよいものを目指すという姿勢からは、単にアーティストとして格好いいことをするだけでなく、ある分野を極めたいという頑固なまでの職人気質が感じられ、それが多くの人の共感を呼ぶのです。
「今回は4000くらいの輝度で撮りました。撮影は暗くてなかなか大変で、モデルも生身なので動いてしまうし、三脚で撮ると写真がつまらなくなるので手持ちで撮りたかったし……。真っ暗な中で撮影するので、構図もどうなっているのかはっきりとわからず、フラストレーションが多い撮影でした。でも、出来上がったものは思った以上にうまくいったと思います。次回は4Kを使って、よりよいクオリティのものをつくっていきたいですね」
次に桐島さんがどんなワクワクするものを見せてくれるのか。この展覧会とともに、その動向からますます目が離せません。(大嶋慧子)
桐島ローランド
写真家・映像作家・フォトグラメトリースタジオAvatta代表取締役、And Roll代表取締役。
1968 年横浜生まれ。小学校 3 年で NY へ移住。 ニューヨーク大学・芸術学部写真科を卒業。 ニューヨークで写真家として活動をはじめ、 1993 年活動の拠点を東京に移す。
「Lucid Dreams」
開催期間:2016年1月5日(火)~1月20日(水)
会場:アイデムフォトギャラリー「シリウス」
東京都新宿区新宿1-4-10 アイデム本社ビル2F
TEL:03-3350-1211
開場時間:10時~18時(最終日は15時まで)
www.photo-sirius.net
●関連イベント:桐島ローランド氏による、トークショーを開催。
代表作品の解説をはじめ、写真展、著作、テレビ出演映像などに関してお話をうかがいます。
日時:2016年1月11日(月) 14:00~16:00
定員:先着100名
参加費無料