仕事がなんだかうまくいかない時期、きっとあると思います。それは自分の考え方や進め方に固執していたり、妙なプライドが壁をつくってしまっていたり、諦めが混じっていることが原因かもしれません。そんな時は、ヒュー・グラントの最新作『Re: LIFE~リライフ~』を観てみるのはいかがでしょうか。愛すべきダメ男を演じさせたら右に出る者のいないグラントによる、再出発の物語です。
グラント演じるキース・マイケルズは落ち目の映画脚本家。かつて、『間違いの楽園』という作品でアカデミー賞を獲得してスポットライトを浴びたものの、その後は泣かず飛ばず。ハリウッドに企画を売りにいっては、自分より若い映画会社幹部にダメ出しを食らっています。そんなキースに舞い込んだのが、東部の田舎町ビンガムトンの大学で脚本クラスの講師を務めるというもの。キースは“都落ち”をイヤイヤ受け入れますが、モチベーションはちっとも上がりません。「才能とは天から与えられるもので、教師が教えて後から身につくものではない」という持論があり、また過去の栄光をいつまでも引きずっているのです。そんなわけで、10人の受講者をルックスだけで選んだり、初めての授業で1ヵ月の休講を言い渡したりとめちゃくちゃなキースですが、映画が大好きで、著名な脚本家から何かを学んでやろうという生徒たちの熱意に、少しずつ考えをあらためます。
現在55歳、いい感じに崩れてきたグラントの魅力が炸裂しています。映画にはいい演技、悪い演技、ヒュー・グラントの演技の3種類がありますが、少々軽薄でシニカルで、ダメさ加減が笑いと共感を呼ぶという、グラントだからできる描写が満載です。『トゥー・ウィークス・ノーティス』『ラブソングができるまで』『噂のモーガン夫妻』と、これまでグラント主演作を3本撮ってきたマーク・ローレンスが監督であることも、この安定感を生んでいることでしょう。全編にちりばめられた、映画界の内輪&自虐ネタ、映画や文学ネタも笑いを誘います。映画でよくある、登場人物が小説や詩を引用して悦に入るシーン、脚本家が知識をひけらかしているようであまり好きではないのですが、この作品での使われ方は嫌味のないものでした。
2人の子どもを育てながら大学に通うヒロイン、ホリーを演じるマリサ・トメイのチャーミングさ。元海兵隊の学科長という設定ながら、『セッション』の鬼指揮者とは裏腹なJ・K・シモンズのコミカルなキャラクター設定。ジェーン・オースティン研究の権威という教授を演じる、アリソン・ジャネイの堅物さ。“アート系”映画を信奉する学生やスター・ウォーズ・マニアなど、受講者たちの個性。グラント以外の描写もなかなか味わいがあります。
鑑賞した次の日には忘れてしまいそうな、というのは言いすぎですが、そんな軽やかさがグラント主演作のいいところ。ずしり、ぐさっ、ぴりりといった感触ではありませんが、笑いに包まれた前向きなメッセージは、ふんわりと心に響くことでしょう。(Pen編集部)
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『Re: LIFE ~リライフ~』
原題/The Rewrite
監督/マーク・ローレンス
出演/ヒュー・グラント、マリサ・トメイ、ベラ・ヒースコート、J・K・シモンズほか
2014年 アメリカ映画 1時間47分
配給/キノフィルムズ
11月20日よりTOHOシネマズ シャンテほかにて公開。