2012年に他界した写真家、深瀬昌久の個展「救いようのないエゴイスト」が、渋谷のDIESEL ART GALLERYにて8月14日(金)まで開催されています。
いまから40年以上前となる1974年、ニューヨーク近代美術館(MoMA)において、土門拳や東松照明、奈良原一高、森山大道といった近代日本写真の第一人者らが一堂に会し、日本の写真家を初めて世界に紹介した写真展『New Japanese Photography』が開催されました。その中で妻・洋子さんをモデルとした作品で話題を呼んだのが、深瀬昌久でした。
日本の写真界を牽引する写真家のひとりだった深瀬昌久。今回のキュレーターであり、アートプロデューサーであるトモ・コスガさんは深瀬昌久アーカイブスの設立者のひとりでもあります。
「深瀬が亡くなったのが2012年6月。遺族からの依頼を受け、2014年7月、深瀬の作品管理と普及を活動目的とした『深瀬昌久アーカイブス』を発足させました。深瀬は1992年に不慮の事故を起こし、制作活動が途絶えた不運の作家。そんな彼の遺した作品を、ただ闇雲に発表するのではなく、彼の言葉や原稿を頼りにしながら時系列を意識して構成したのが本展『救いようのないエゴイスト』です。開催までの11ヵ月間、作品整理と展覧会コンセプトを同時進行という強行突貫工事でした」
何十年も眠っていたにも関わらず、まったく古さを感じさせず、むしろ斬新な作品群。本という形の中では味わえない迫力のある一枚一枚の写真を見ていると、時には残酷で激しく、時にはユーモラスに、そして時には繊細な深瀬氏の一面が垣間見られたような錯覚に陥ります。そして、見る人の心をそのまま写す鏡のような不思議な写真は、どれも生々しい生命力に満ちあふれています。
この写真展のタイトルにもなっている『救いようのないエゴイスト』は、元妻・三好洋子さんが1973年発刊の「カメラ毎日」誌別冊に寄稿した原稿の題名です。そして、この文章の中で初めて深瀬氏のモデルになった洋子さんのエピソードが書かれています。
「牛がマントの裾を引っ張ったのはまったくの偶然。いま見てもかっこいい写真よね」と洋子さん。唇を白く塗り、太いアイラインをひいた神秘的なメイクもご自分でなさったそうです。洋子さんは文章の中で、「十年もの間、彼は私とともに暮らしながら、私をレンズの中にのみ見つめ、彼の写した私は、まごうことない彼自身でしかなかったように思います」とも語っています。
身近なモチーフにレンズを向けながらも、それは常に自ら見つめ続ける事だった深瀬氏と、それに寄り添い、時には反発をしていた洋子さん。本展では、深瀬氏が自身で手がけた最後の作品のひとつ『私景』も展示されていますが、よく見るとこの中に当時の洋子さんが写っています。
また今回は、珍しいカラー写真も展示されています。
「深瀬と聞けば、モノクロームに羽ばたくカラスたちを写した代表作『鴉』を思い浮かべる方が多いと思います。だけど実は、カラーでも手がけていたのです。今回お見せする『鴉・夢遊飛行』はデジタル技術なんて普及してなかった1980年、深瀬がフィルムを重ね合わせて手作りしたモンタージュ作品。かつて雑誌で一度掲載されたのみで、展示では今回が初となります。カラーの深瀬作品の素晴らしさもぜひ体感してもらいたい」とコスガさん。
当時の写真集や洋子さんの原稿が寄稿された紙面も展示されており、しかも展示品にかかわらず手に取って読む事もできるなど、天才・深瀬昌久をまた違った角度から知る展覧会となっています。 (大嶋慧子)
いまから40年以上前となる1974年、ニューヨーク近代美術館(MoMA)において、土門拳や東松照明、奈良原一高、森山大道といった近代日本写真の第一人者らが一堂に会し、日本の写真家を初めて世界に紹介した写真展『New Japanese Photography』が開催されました。その中で妻・洋子さんをモデルとした作品で話題を呼んだのが、深瀬昌久でした。
日本の写真界を牽引する写真家のひとりだった深瀬昌久。今回のキュレーターであり、アートプロデューサーであるトモ・コスガさんは深瀬昌久アーカイブスの設立者のひとりでもあります。
「深瀬が亡くなったのが2012年6月。遺族からの依頼を受け、2014年7月、深瀬の作品管理と普及を活動目的とした『深瀬昌久アーカイブス』を発足させました。深瀬は1992年に不慮の事故を起こし、制作活動が途絶えた不運の作家。そんな彼の遺した作品を、ただ闇雲に発表するのではなく、彼の言葉や原稿を頼りにしながら時系列を意識して構成したのが本展『救いようのないエゴイスト』です。開催までの11ヵ月間、作品整理と展覧会コンセプトを同時進行という強行突貫工事でした」
何十年も眠っていたにも関わらず、まったく古さを感じさせず、むしろ斬新な作品群。本という形の中では味わえない迫力のある一枚一枚の写真を見ていると、時には残酷で激しく、時にはユーモラスに、そして時には繊細な深瀬氏の一面が垣間見られたような錯覚に陥ります。そして、見る人の心をそのまま写す鏡のような不思議な写真は、どれも生々しい生命力に満ちあふれています。
この写真展のタイトルにもなっている『救いようのないエゴイスト』は、元妻・三好洋子さんが1973年発刊の「カメラ毎日」誌別冊に寄稿した原稿の題名です。そして、この文章の中で初めて深瀬氏のモデルになった洋子さんのエピソードが書かれています。
「牛がマントの裾を引っ張ったのはまったくの偶然。いま見てもかっこいい写真よね」と洋子さん。唇を白く塗り、太いアイラインをひいた神秘的なメイクもご自分でなさったそうです。洋子さんは文章の中で、「十年もの間、彼は私とともに暮らしながら、私をレンズの中にのみ見つめ、彼の写した私は、まごうことない彼自身でしかなかったように思います」とも語っています。
身近なモチーフにレンズを向けながらも、それは常に自ら見つめ続ける事だった深瀬氏と、それに寄り添い、時には反発をしていた洋子さん。本展では、深瀬氏が自身で手がけた最後の作品のひとつ『私景』も展示されていますが、よく見るとこの中に当時の洋子さんが写っています。
また今回は、珍しいカラー写真も展示されています。
「深瀬と聞けば、モノクロームに羽ばたくカラスたちを写した代表作『鴉』を思い浮かべる方が多いと思います。だけど実は、カラーでも手がけていたのです。今回お見せする『鴉・夢遊飛行』はデジタル技術なんて普及してなかった1980年、深瀬がフィルムを重ね合わせて手作りしたモンタージュ作品。かつて雑誌で一度掲載されたのみで、展示では今回が初となります。カラーの深瀬作品の素晴らしさもぜひ体感してもらいたい」とコスガさん。
当時の写真集や洋子さんの原稿が寄稿された紙面も展示されており、しかも展示品にかかわらず手に取って読む事もできるなど、天才・深瀬昌久をまた違った角度から知る展覧会となっています。 (大嶋慧子)
救いようのないエゴイスト
5月29日(金)〜8月14日(金)
会場: DIESEL ART GALLERY
東京都渋谷区渋谷1-23-16 cocoti B1F
TEL:03-6427-5955
開館時間: 11時30分〜21時
休館日: 不定休
入場無料
www.diesel.co.jp/art