「心をえぐられた」「人生で一番泣いた」...ハリー杉山のオススメ韓国映画5本

  • 文:柾木博行

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「心をえぐられた」「人生で一番泣いた」...ハリー杉山のオススメ韓国映画5本

ハリー杉山(Harry Sugiyama)
タレント、MC。東京生まれ。投資銀行勤務、ロンドン大学東洋アフリカ研究学院などを経て、タレント、モデル、俳優として幅広く活躍している。2015〜16年に『テレビでハングル講座』(NHK)出演

<韓国にゆかりのある4人がおすすめする韓国映画。圧巻のストーリーテリングに心をえぐられた映画から、笑って泣ける傑作まで、本気で心を動かされた5作品とは?>

1.『オールド・ボーイ』(2003年)
2.『タクシー運転手 約束は海を越えて』(2017年)
3.『KCIA 南山(ナムサン)の部長たち』(2020年)
4.『神と共に』(2017年)
5.『私の頭の中の消しゴム』(2004年)

高校はイギリスの全寮制私立男子校(パブリックスクール)だったので、週末の暇なときにはサッカーをするか、友達と寮の部屋で映画を見ていました。ハリウッド大作だけでなく東欧の映画なんかも見ていたので、マイナーな作品も結構知っています。

そんな僕が、韓国の映画はすごい! と初めて思ったのがパク・チャヌク監督の『オールド・ボーイ』(2003年)
『ユージュアル・サスペクツ』みたいな衝撃のオチや、『セブン』みたいにこんなに残酷な終わり方でいいのかとか、驚かされる映画は多々あります。でもそれをはるかに超えて、心をえぐられるような作品は『オールド・ボーイ』が初めてでした。

物語は、15年間監禁されていた男が突然解放されるところから始まります。ビジュアルのすごさに衝撃を受けましたが、やはり圧巻はストーリーテリング。音楽の使い方や、役者一人一人の力もすごい。主役のチェ・ミンシクの演技には感動しましたし、見たこともないほど恐ろしい悪役を演じたユ・ジテが好きでした。

未来のために闘う勇士

僕の父ヘンリー・スコット・ストークスはニューヨーク・タイムズ紙の東京支局長として、韓国と長い付き合いがありました。1993年の金泳三大統領の就任日には韓国まで僕を連れて行き、会わせてくれました。『タクシー運転手 約束は海を越えて』(17年)で描かれた80年の光州事件の現場に父は居合わせ、後に僕もいろいろと話を聞かされました。映画の主人公の1人、ドイツ人記者ユルゲン・ヒンツペーターもよく知っています。

そんな背景もあって、『タクシー運転手』は僕にとって特別な映画。たとえ光州事件を知らなくても、民主化運動や、政府に対して立ち上がることの意味を教えてくれる素晴らしい作品です。

人種の壁を越えた友情は本当にあるのか、ということも考えさせられます。そして、「デモ」についても。多くの日本人は、デモというとちょっと「引く」かもしれません。しかし日本の外に出れば、それは自分の思いを表現するごく普通の手段です。ご飯を食べたり寝たり、人を愛したりするのと同じ生活の一部で、デモ=反政府、デモ=暴力と考えるのはナンセンスです。

今の日本には「意思を表明しても何も変わらない」という諦めがあると思います。だからこの映画で、国の未来のために闘う勇士たちを見ると、ぐっときてしまいます。

なぜ韓国映画にこんなに心を溶かされるのかと考えてみると、それは情の伝え方が非常にうまいから。「喜怒哀楽のローラーコースター」みたいなところがあって、人間の心情を生々しく表現するので、たとえ韓国語が分からなくてもしっかりと伝わってきます。

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新たな扉を開いたイ・ビョンホン

韓国では光州事件の前年に、朴正煕大統領を大統領直属の中央情報部(KCIA)部長が射殺する事件が起きました。軍事政権にいったん幕が下りた1979年10月26日は、韓国という国が永遠に変わった一日だったと思います。

この暗殺事件に基づく『KCIA 南山の部長たち』(20年)を3作目に挙げます。監督は『インサイダーズ/内部者たち』のウ・ミンホ。非常にうまく作られたサスペンスで、見事なテンポ感に心を奪われました。ミャンマーでいま起きていることを彷彿させるような部分もあり、見ている間はずっと心がひりひりしていました。

KCIA部長を演じ、新たな扉を開いたイ・ビョンホンが最高です。葛藤する彼が髪をくしゃくしゃかき上げるようなシーンで、彼のファンはとろけてしまうはずです。

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見たことのないような視覚効果

これらの作品とは違ってちょっとくだらない作風に感じますが、ぜひ見てほしいのが『神と共に』シリーズ。『神と共に 第一章:罪と罰』(17年)、『神と共に 第二章:因と縁』(18年)で、第三章の製作も噂されています。

『神と共に 第一章:罪と罰』予告編 YouTube

オープニングで心優しい消防士が火災現場で命を落とす。その瞬間、冥界から使者2人が現れ、主人公に「死後の49日間で7つの地獄で裁判を受け、全て無罪なら転生できる」と告げる――というストーリーがとにかく最高ですが、VFX(視覚効果)も見たことのないようなすごさです。『ハリー・ポッター』の「死喰い人」の何百万倍も怖い怪物が現れたり、『ゲーム・オブ・スローンズ』みたいな描写が次々と出てきたりします。

裁判で使者が消防士を弁護するところは弁護士映画のようでいて、その闘いの場が地獄なのがエグい。例えば、巨大な滝の上から次々と人が流されていくのを背景に裁判が行われます。ダンテの『新曲―地獄篇―』にあるような、「こういう所には行きたくない」と子供の頃に思ったような描写で、そのすごさは見ないと分からないですね。

下界と地獄を行ったり来たりする構成も見事。第二章には僕が大好きな、相変わらずアイドルのウエストくらいの腕の太さをしたマ・ドンソクも登場します。くだらないシーンに笑えて、でも最後には心温まり、泣ける傑作です。

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僕が人生で一番泣いた映画

最後は、これもぜひ見てほしい作品の『私の頭の中の消しゴム』(04年)。『愛の不時着』のソン・イェジンが、若年性アルツハイマーになる主人公を演じています。

「家族って何?」というありがちなテーマかもしれません。でも、ちょっとショッキングな描写も見せつつ、大切な人との一秒一秒を無駄にせず、思いやりをもって接することの大切さを教えてくれます。

うちの父はパーキンソン病と認知症を患っており、僕自身も在宅介護を経験しています。だから僕の心にはドンピシャで、人生で一番泣いた映画です。

(構成・大橋希)


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ハリー杉山(Harry Sugiyama)
タレント、MC。東京生まれ。投資銀行勤務、ロンドン大学東洋アフリカ研究学院などを経て、タレント、モデル、俳優として幅広く活躍している。2015〜16年に『テレビでハングル講座』(NHK)出演

※韓国を飛び出し、世界で支持を広げ続ける「進撃の韓流」――本誌5月4日/11日号「韓国ドラマ&映画50」特集より。本誌では夏までに日本公開される最新映画、注目のドラマも取り上げています