コロナ禍でレコード盤がCD売上を上回る勢い、その理由は......

  • 文:松丸さとみ

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コロナ禍でレコード盤がCD売上を上回る勢い、その理由は......

urbancow-iStock.

<レコード盤の人気が復活している。売上高は2020年、米国でCDの売上高を追い抜いており、英国でも2021年にはCDの売上高を上回る......>

ライブに行けず浮いたお金でレコード購入

かつてCDは、音楽記憶媒体としてもっとも愛用された時期もあったが、最近はストリーミング・サービスが主流になってきたため、CDの売り上げは減少の一途をたどっているという。一方で、復活の兆しを見せているのが、レコード盤だ。レコード盤の売上高は2020年、米国でCDの売上高を追い抜いており、英国でも2021年にはCDの売上高を上回るとみられている。

英ガーディアン紙によると、英国では2020年、レコード盤の売上高が前年比30%増となる8650万ポンド(約132億円)に達した。この金額は1989年以来最大だという。2020年は新型コロナウイルス感染症の流行により、音楽を聴きにライブ会場に足を運べなかったことで、音楽ファンは浮いたお金をレコード盤の購入につぎ込んだというのがその理由だとみられている。

一方で、CDの売上高は、前年比18.5%減の1億1500万ポンド(約176億円)だった。売り上げ枚数は、1600万枚。

売り上げ枚数だけを見ると、レコード盤はCDと比べてかなり少なく、2020年は480万枚だった。とはいえこの数字は、過去30年で最多となるという。

2020年に一番売れたレコードは

英国レコード産業協会(BPI)はガーディアンに対し、2021年にはレコード盤の売上高が、CDの売上高を上回るとみられていると予測を述べた。レコード盤の売上高がCDを上回るのは、1987年以来になるという。

レコード盤の人気復活をけん引しているのは、デジタルに囲まれて育った20代だと言われている。親が聞いていたレコードを見つけたのがきっかけだったという理由や、レコードの方が音が良い、カッコいいなどの理由があるようだ。

ストリーミングは、聴きたいときにすぐに聴ける便利さが人気だ。しかしプレーヤーが必要になるレコード盤をわざわざ買う理由には、好きなアーティストの作品を現物として所有したいというファン心理もあるようだ。また、ジャケット・アートやライナーノーツの存在も、ストリーミングだけでなくあえて現物を買いたいと思わせる要因になっていると、BPIは分析している。

英国で2020年にもっとも売れたレコードのLP盤は、イングランド出身のロックバンド、フリートウッド・マックが1977年に発表したアルバム『噂』だった。その他、オアシスの『モーニング・グローリー』(1995年発表)といった古いものや、ハリー・スタイルズの新作『ファイン・ライン』などが売れているという。

なおフリートウッド・マックの『噂』は、レコード盤のみならずアルバム自体が、2020年によく売れた。米ニューヨーク・タイムズ紙によると、昨年10月にビルボードのアルバムチャートの7位にランクインし、42年ぶりに同チャートのトップ10に返り咲いた。売れた理由としては、『噂』に収録されている曲『ドリームズ』をBGMにしたTikTok動画が、昨年9月にバズったことがある。

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音楽業界は、2002年以来最高益に

一方の米国では、2020年にすでに、レコード盤とCDの売上高が逆転している。

音楽業界のニュースサイト、ミュージック・ビジネス・ワールドワイドは、アメリカ・レコード協会(RIAA)からの数字として、2020年にLPとEPを合わせたレコード盤の売上高が、前年比29.2%となる6億1960万ドル(約685億円)に達したと報じた。これに対しCDは、前年比23.4%減の4億8330万ドル(約534億円)だった。米国でレコード盤がCDの売り上げを上回るのは、1986年以来だという。

2020年に米国でもっとも売れたレコード盤は、ハリー・スタイルズの『ファイン・ライン』で23万2000枚。これにビリー・アイリッシュの『WHEN WE ALL FALL ASLEEP, WHERE DO WE GO?』(19万6000枚)とクイーンの『グレイテスト・ヒッツ』(17万6000枚)が続いた。

とはいえ、売り上げ枚数に関していえば、英国同様、米国でも2020年も依然としてCDの方が多く、レコード盤の2290万枚に対し、CDは3160万枚だった。

世界の音楽業界全体でいうと、2020年は2002年以来、最高益を記録したという。英フィナンシャル・タイムズ紙によると、スポティファイやアップル・ミュージック、Deezer(ディーザー)などのストリーミング・サービスがけん引し、音楽業界全体での売上高は、前年比7.4%増の216億ドル(約2.4兆円)だった。

ストリーミング・サービスからの売り上げは、音楽業界全体の売り上げの62%を占める。中でも、レゲトン・ブームに乗って前年比で16%増となったラテンアメリカや、アジア、アフリカでの成長が著しいという。

文:松丸さとみ

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