ハニーバニーなロードランナー!? 愛さずにはいられない、TT RS クーペとは。

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    東京車日記いっそこのままクルマれたい!

    第124回 AUDI TT RS COUPÉ / アウディ TT RS クーペ

    ハニーバニーなロードランナー!? 愛さずにはいられない、TT RS クーペとは。

    構成・文:青木雄介

    編集者。長距離で大型トレーラーを運転していたハードコア・ドライバー。フットボールとヒップホップとラリーが好きで、愛車は峠仕様の1992年製シボレー カマロ改。手に入れて11年、買い替え願望が片時も頭を離れたことはない。

    フロントフェイスを一新したTT RS クーペ。

    昨年、アウディの小型コンバーティブルのイメージを担ってきたTTロードスターが生産終了した。TTクーペも正式なインフォメーションはないものの、現行モデルで生産終了になると噂されている。どうやら現行とは異なる電動化した小型スポーツクーペを投入するらしいんだよね。なんにせよ、日本でも長らく親しまれてきた「TT」という名称はもはや風前の灯……。そうね、「オーマイTT」と涙目になりながらTWICEよ、永遠なれという心境も重ねつつ(笑)、最後のモデルとなるだろうTT RS クーペのステアリングを握った。

    現行となる3代目TTのRSモデルの発売は、4年前。アルピーヌのA110やBMWのZ4(ロードスターだけど)、ポルシェの718シリーズといった小型スポーツカーのライバルに対して、明確に選ばれる理由とポジションを獲得してきた。その理由のひとつは「カワイイ」ということ。それもメチャがつくほど、カワイイ(笑)。車体を上から眺めれば、丸くうずくまった小動物感があって、思わず「ハニーバニー!(かわいいウサギちゃん)」と駆け寄りたくなるんだよね(笑)。

    視点を変えてローアングルで見ると、スポーツカー然とした表情が現れる。そこはアウディのレーシングラインであるRSシリーズなので、走りを体現しているという意味では本道なわけだけど、今回、フロントフェイスにデザインの変更が入ったことで、強めだったコントラストがやわらぎ、落ち着いたデザインになった。これが初代TTを彷彿とさせ、佇まいは原点回帰したって感じなんだ。かわいさで言えばよりかわいくなったんだけど、いったんそれは横に置いておいて(笑)、スポーツ性能に注目してみよう。

    見た目とは別に、ライバル車と比較して選ばれるポイントは、クワトロ(4輪駆動)であり、直列5気筒エンジンを積んでいることにある。アウディにとって直列5気筒エンジンは40年以上にもわたって研鑽を積んできたエンジンであり、クワトロやアルミスペースフレームに次いでブランドのイメージを担ってきた重要なエッセンスなんだ。

    直列5気筒エンジンはラリー競技におけるパワーと軽量化の追求によって磨かれ、しばらく生産されない時期もあったけれど、車格とのマッチングのよさで復活した。とりわけ、アウディのスポーツモデルにおいては、ライバルよりもジャストサイズのエンジンを載せる優位性があったと言えるだろう。

    直列4気筒だと物足りないけど、6気筒だと重い。そんなスポーツカーにありがちな不満の中間に位置する、ちょうどよいバランスをとれるエンジン。それでいてブランドのエッジネスを印象づける、ユニークな看板エンジンでもある。それが現在のアウディにとっての直列5気筒エンジンなんだ。長らくアウディの顔として親しまれてきたTTのRSモデルには、ぴったりでしょ。

    4輪駆動のパワーを御し、スマートに走らせる。

    アクセルを踏み込めば、直列4気筒との差は歴然となってサウンドに現れる。ビートを刻むような1気筒あたりの力強さと、気前のよい多気筒感を両立させているのが直列5気筒のミソなのね。RSシリーズのサウンドは基本的に静かでスタイリッシュな味つけなんだけど、TT RSの場合は踏み込めばしっかり主張し、ハートの熱いスポーツカーってところを見せつける。羊の皮をかぶった狼というのはRSシリーズでよく言われることだけど、TTに至ってはウサギの皮をかぶったロードランナーといったところ(笑)。

    ややオーバーステアリングな味つけで、先んじて4輪駆動のデメリットを消しにきている。そもそも4輪駆動なのに4輪駆動を感じさせない、自然なステアリングフィールがアウディの凄いところ。最高出力は400馬力、最大トルクは480ニュートンメートルものパワーをしっかり制御している。ハードなドライビングをしても、挙動がピーキーな小型スポーツカーをちゃんと安定させる、トルクベクタリングの技術に舌を巻くわけ。そのスマートな走りに、おもわず膝を打つっていうね。

    ただ足まわりは、ワインディングを駆け抜けるぐらいだと気にならないけど、攻め込むとなると少々心許ないのね。シャシーも剛性感が抜群だからなおさら気になるところで、峠を攻めたかったり、サーキットで走行したりするなら足まわりは断然、硬めのセッティングに変更したくなる。いや、ノーマルでも実際、速いですよ。全体のポテンシャルがめちゃくちゃ高いのがわかるから、攻め込むほどに「(硬ければ)もっと速く走れるのに」、「タイム削りにいけるのに」って不満が出てきちゃう。でもそんなのアウディは百も承知でね。それもこれも理由があるんですよ。

    そう。カワイイには理由がある(笑)。なるほど日常での走行、街中を気持ちよく駆け抜けるのに最高な足まわりのセッティングにしてあるから、なんだよね。これこそがRSシリーズの真髄なんだ。街中で小型のサイズをクワトロで操る感覚って、スニーカーはスニーカーでもさり気なく、ちょっといいブランドのスニーカーを履いているみたいな感覚なんだよね。街に溶け込みながらも、存在感を醸し出す。運転している感じも浮ついた印象ではなくて、自分の見せ方をよくわかっている感じがするのね(笑)。

    特にアウディドライブセレクトのモードをオートにして、アクセルワークのままにクルマを走らせると、生き生きと応答してくるのが素敵。車重は1.4トンを超えるから、軽量ボディをそのまま楽しむライトウェイトな走行感覚ではなくて、RSシリーズ本来の静かでスタイリッシュな走りに、ドライバーズカーの煌めきを上乗せした感じ。

    そしてこのオートモードは見事なまでに乗り手を選ばない。2+2の後部座席は大人が座るには厳しいけど、チャイルドシートの据え付けぐらいなら全然問題ない。そもそも疲れさせないスポーツカーだし、オートモードの静かな走りは小さな子どもがいる家族構成にもぴったりなんだ。「パートナーや家族とだって走りも楽しみたい」とくれば、この足まわりはやっぱり正解。TWICEの「TT」じゃないけど、硬めの足まわりに変えるのは「ヤメテ」って、おウチのハニーバニーにも言われるはずなんだ(笑)。

    • アルミ製クランクケースの採用などによりエンジンは26kg軽量化された。

    • 前輪は専用の8ピストンキャリパーで、セラミックディスクも選べる。

    • レザーとアルカンターラによるRS専用キットのインテリア。

    • ホイールは19インチの5アームポリゴンデザインアルミ。

    • ディフューザーインサートやロゴはグロスブラック仕立て。

    • デュアルパイプマフラーとウイングが印象的なリアビュー。

    アウディ TT RS クーペ
    ●サイズ(全長×全幅×全高):4200×1830×1370㎜
    ●エンジン形式:直列5気筒DOHCターボ
    ●排気量:2480cc
    ●最高出力:400PS/ 7000rpm
    ●駆動方式:4WD(フロントエンジン4輪駆動)
    ●車両価格:¥10,260,000(税込)~

    ●問い合わせ先/アウディ コミュニケーションセンター
    TEL:0120-598-106
    www.audi.co.jp