「新しい刺激」に飢えた、若き表現者・村上虹郎。

  • 撮影:タカコノエル
  • 文:佐野慎悟

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vol.03

「新しい刺激」に飢えた、若き表現者・村上虹郎。

撮影:タカコノエル 文:佐野慎悟

クリエイター同士が表現をぶつけ合う、他ジャンルのコラボレーションに刺激を受ける村上虹郎。この日も初対面となったビジュアルアーティスト・タカコノエルと、即興のフォトセッションを楽しんでいた。

2020年に公開された主演映画『ソワレ』では、若い男女の逃避行を情感豊かに演じ切った村上虹郎(にじろう)。既にデビューから6年が経ったいま、ひとりの役者としての円熟味は、作品を追うごとに飛躍的に増している印象だ。そんな村上が、雑誌『フィガロジャポン』の誌面とウェブサイトにて、映像作家兼写真家の山田智和とともに、20年の5月まで展開していた連載企画『虹の刻』。1年5カ月にわたり、合計17名の作家やアーティストを招いて紡ぎ上げられた珠玉の作品群が、今回ついに一冊のコンセプトブックという形に集約された。既存の枠に留まらず、常に新しい表現方法を模索する村上は、なにを思って異業種とのコラボレーションを続けてきたのか。またそのクリエーションは、本業である芝居とどのように関係しているのか。23歳の現在地を、自分の言葉で語ってもらった。


──連載版の『虹の刻』は、山田智和さんとともに作り上げた写真表現と映像に、注目の作家やクリエイターが寄せるショートショートや散文と、音楽家による楽曲を組み合わせるという、かなり実験的な異業種コラボレーションでした。なぜこのような連載になったのですか?

村上:むちゃくちゃ恥ずかしい言い方をすると、見たことがないものを見たかったから(笑)。このメンバーだったら、それができるんじゃないかという思いから、最初はただ山田さんと撮影に出かける形でスタートしました。そうしたら一発目から“山田智和というスケールのあるフィールド”で素敵なモノが出来上がったので、フィガロに持ちかけて連載という形で続けていくことになりました。そして「言葉にならなかった感情、いましかない瞬間」をテーマに、僕らではない第三者に言葉と音楽を紡いでもらうことで、また新たな発見ができるような仕組みを試してみました。

初対面の緊張感はなく、いかなるときも自分らしさを忘れない村上。カメラを向けられていても、気のおもむくままに、自然体を崩さない。

──文筆家には初回の又吉直樹さんを始め、山崎ナオコーラさん、町田康さん、俵万智さんと、そうそうたる顔ぶれが並びました。写真と文はそれぞれが独立して存在しているようでいて、それでもときに交錯して混じり合いながら、複雑な化学変化を起こしています。このコラボレーションはどのようにして進んでいったのですか?

村上:写真や映像と文章は、同じテーマだけ共有していますが、お互いどのようなイメージになっているのか、完成するまでわからない。だから毎回テーマから僕がイメージしたものとは、まったく違うものに出会える楽しみがありました。


自分にとって心地のいい環境では、新しい自分に出会えない。

他ジャンルのクリエイターとともに作品を作り上げることに対して、「以前は自分で写真を撮ったり、言葉をポツポツと連ねることの方が多かったかもしれない」と語る村上。「ただ、昔はノリだけでできたけど、次第にいまの自分では、なにかをひとりでつくり上げるのに、経験や知識が圧倒的に足りないと思うようになりました。だからいまは、ただひたすらに蓄積の時」

──まったく着地点が見えない状態で、お互いが表現をぶつけ合う形ですね。なぜあえて計画的な要素を排除するのでしょうか?

村上:それはやっぱり、見たことがないものを見たいから。根本的に、新しい感覚とか、新しい世界に飛び込みたいという欲求が常にあります。そういう意味でいうと、毎回違う脚本で、毎回違う役を演じることができる役者は、僕にとっては最高の生き方だと思います。ただ、それは自分の行為としては新しいことではなかったりします。自分にとって心地のよい場所で、馴染みの人とばかり触れ合っていても、新しい自分には出会えないと思うんです。自分のフィールドの外にいる人と出会うことで、「あんたってここが全然足りてないね」とか、「ここがすごいよね」とか、客観的な意見に触れることができます。心地のよい自分の場所と、外の世界。そのどちらもすごく重要で、バランスが大事だなって、最近特に思います。

いま欲しいものを尋ねると、「お金が欲しい」との回答。「思い立ったことに際限なく使えるお金があったら、もっと経験が広がるのになって思うんです。たとえば、彼女とか親友じゃなくて、今日知り合ったおじさんと、居酒屋にいくような感覚で突然スペインに遊びにいくとか(笑)」

村上が最近いちばん気になっているのは、秋屋蜻一という作家の絵画作品。「あまり素性が明かされておらず、いくら調べても、どこで作品を買えるのか、どこで活動されているのか、まったく情報が掴めません。でも、いつかなにかしらの形でお近づきになりたいです」

──映画以外にも、写真や、アートや、音楽など、幅広い分野に興味を広げているイメージですが、その裏にはやはり、新しい刺激を求める欲求がありそうですね。一度ハマったら、かなり深掘りしていくタイプですか?

村上:全然違います(笑)。なんでも最初のインパクトが好きだから、興味の矛先は次から次へと移っていきます。たとえば写真にハマっていたときは、毎日カメラを持ち歩いて、なにを撮っても楽しくて仕方がなかったけど、しばらくすると、最初の衝動は薄れてしまいます。カメラというものは、自分と他者の間にある一つのコミュニケーションツールとも捉えられますが、僕は次第に、なにも武器を持たず、もっと直感的にコミュニケーションを取りたいと思うようになりました。なんでもただ無闇に深堀りしても意味がないので、自分に必要なものを見極めて、適切な距離感を保って向き合う感じですね。

自分が本当に欲することに、素直でありたい。

自分が演じる役柄に対して、村上の中で決まったアプローチはない。「毎回役と出会ってみて、脚本や媒体、スケール感、準備期間などを俯瞰で見て、どう向き合っていくのが最適なのか、その都度考えてアプローチしています」

──いろんなことに興味を広げながら、本業でもしっかりと実績を重ねていて、日々インプットしていく情報の量が凄そうですね(笑)。

村上:そんなことないですよ。自分が欲している時はそれこそ浴びるように勉強するけど、まったくなにもインプットしない時ももちろんあります。最近もコロナの影響で家にいる時間が多かったですが、この機会にゴダールの作品を見返して理解しようとか、サミュエル・ベケット、イプセン、太宰を読み返そうとか、いろいろ考えたんです。でもぜんぜんやらないんです(笑)。ずっと携帯ゲームをやっちゃうんですよ。だからもう、あえてだらだら過ごしてやりました。僕はいつも、これが欲しい! とか、これが気持ちいい! っていう感覚を大事にしているから、逆に勉強だと思って向き合ってしまうと、それが自分にとって本当に必要なものなのか、いま吸収すべきものなのか、その重要な部分を見失ってしまうかもしれません。

驚くほどに自然体で、まったく気負いを感じさせない村上。自分の魂に忠実であることが、彼の中ではなによりも優先されるべきこと。そんな村上の言葉や芝居には、どこまでも嘘がない。

──デビューから6年。役者としての実績と存在感を着実に高めていますが、なにか今後について、具体的な目標はお持ちですか? 

村上:あまり目標をたてたことがないんですよね。いまはそれこそいろんなものを見て、いろんな経験をして、自分の中に蓄積させている段階です。それこそ、僕のデビュー作の映画『2つ目の窓』で高崎映画祭の新人賞をいただいたんですが、その時に受け取った高崎ダルマには、まだ片目も入れていない状態です。スタートラインにも立っていない状態だから、目標とするゴールもない。ただ、最近になって、実はひとつ、やりたいと思えることができたんですよね。やっぱこれだなって。まだ誰にも言うつもりはありませんが(笑)。


衣装:シャツ¥117,700(税込)、パンツ¥50,600(税込)/ともにヨウジヤマモト(ヨウジヤマモト プレスルームTEL:03-5463-1500) 他は私物


『虹の刻』 村上虹郎/山田智和 著 CCCメディアハウス ¥3,080(税込) 2020年12月24日(木)発売。
 ※村上虹郎サイン入りポスターを30名様にプレゼント。詳細はこちらから↓
http://books.cccmh.co.jp/news/2020/11/post-86.php

村上虹郎
1997年、東京都生まれ。俳優の村上淳とアーティストのUAを両親に持ち、東京、大阪、沖縄、カナダと、さまざまな地域で異なる刺激を受けながら育つ。2014年、映画『2つ目の窓』で映画初出演にして主演を務め、同作品で高崎映画祭・最優秀新人男優賞を受賞。17年の映画『武曲 MUKOKU』にて、日本アカデミー賞優秀助演男優賞を受賞。20年12月24日にコンセプトフォトブック『虹の刻(にじのこく)』(CCCメディアハウス)が発売。21年10月公開予定の映画『燃えよ剣』では、幕末の土佐藩郷士・岡田以蔵を演じる。