小林武史 サステイナブルの行方。
人間の感覚とは違う、 生物に心地いい水流。
オクダ サトシ(goen゜)・絵 illustration by Satoshi Okuda
小久保敦郎(サグレス)・構成 composed by Atsuo Kokubo
僕は毎日のように泳いでいて、ダイビングも好き。そのせいか、水に対して感謝する思いが日々あります。そもそも地球は水の惑星です。固体から液体、気体へと常に状態を変化させながら、ずっと循環している水には太陽エネルギーが深くかかわっています。
いま運営している体験型農場「クルックフィールズ」に、下水道はありません。かわりに、循環型の水質浄化システムを取り入れました。「バイオジオフィルター」です。まず、生活排水は浄化槽に送り、微生物の力で有機物に分解します。その水をクレソンなど植物が育つフィルターに通すと、植物が栄養素を吸収して水が浄化されます。その水は場内を巡る水路を通り、マザーポンドと呼ぶ池にたどり着く。そこから太陽光エネルギーで水を汲み上げ、植物の水になる循環システムです。マザーポンドでは、魚が棲めるほど浄化された水質になります。
この施設のインフラは、できるだけ環境への負荷を少なくしたいと思っていました。バイオジオフィルターは、負荷を軽減するだけでなく、もっとポジティブ。水の循環サイクルのなかで、植物が育ち、昆虫や鳥が集まり、水路や池で魚が泳ぐ。排水は人間の営みによるものだけれど、営みを繰り広げることで環境が豊かになり、多様な命を育むことにつながっているのです。
バイオジオフィルターのキーのひとつに、スピードがあります。水路の水は、とてもゆったりと流れていく。それが、命を集めたり、互いに作用したりするのにふさわしい速さ。僕らが見て、気持ちよく流れているな、と感じる速さとはまた違います。これは新しい気づきでした。というのも、都市で生活していると、そこには人やモノが集まり、どんどん消費しながら発展している感覚があります。でも、本当に必要なものを生み、消費しているのだろうか。スピーディな経済の合理性に、ただ流されていないか。そこでは本当の意味での集まり、交わりが希薄になっていて、むしろ都市ならではの孤独が起きていないか。そんなことに思いを馳せてしまうのです。
自然に頼るシステムゆえ、バイオジオフィルターは、まだ完全に機能しているわけではありません。それでも仕組みをよく観察し、アシストするのはとても楽しい。手を加えるというより、自然の一部としての僕らが、そこに混ざり合う感覚があります。水の循環と命のつながりのなかで、自分が役に立てている。それは、本当に気持ちいいことだと感じています。