人間の感覚とは違う、 生物に心地いい水流。

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    Takeshi Kobayashi
    1959年山形県生まれ。音楽家。2003年に「ap bank」を立ち上げ、自然エネルギー推進や、野外イベントを開催。19年には循環型ファーム&パーク「KURKKU FIELDS」をオープン。震災後10年目の今年、櫻井和寿、MISIAとの新曲を発表。宮城県石巻市を中心に発信するアートイベント「Reborn-Art Festival」も主催している。
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    【水の循環】
    WATER CYCLE
    「ap bank」などの活動を通して環境問題に向き合うなど、サステイナブルな社会について考え、行動してきた小林武史さん。その目に、サステイナブルの行方はどう映っているのか。連載8回目のテーマは「水の循環」。小林さんが運営する「クルックフィールズ」では、下水道のかわりに自然に頼る水質浄化システムを導入している。それは人の営みが環境を豊かにし、さらに多様な命を育むことにつながるポジティブな水の循環でもある。

    人間の感覚とは違う、 生物に心地いい水流。

    森本千絵(goen゜)・絵 監修  illustration supervised by Chie Morimoto
    オクダ サトシ(goen゜)・絵 illustration by Satoshi Okuda
    小久保敦郎(サグレス)・構成 composed by Atsuo Kokubo

    僕は毎日のように泳いでいて、ダイビングも好き。そのせいか、水に対して感謝する思いが日々あります。そもそも地球は水の惑星です。固体から液体、気体へと常に状態を変化させながら、ずっと循環している水には太陽エネルギーが深くかかわっています。

    いま運営している体験型農場「クルックフィールズ」に、下水道はありません。かわりに、循環型の水質浄化システムを取り入れました。「バイオジオフィルター」です。まず、生活排水は浄化槽に送り、微生物の力で有機物に分解します。その水をクレソンなど植物が育つフィルターに通すと、植物が栄養素を吸収して水が浄化されます。その水は場内を巡る水路を通り、マザーポンドと呼ぶ池にたどり着く。そこから太陽光エネルギーで水を汲み上げ、植物の水になる循環システムです。マザーポンドでは、魚が棲めるほど浄化された水質になります。

    この施設のインフラは、できるだけ環境への負荷を少なくしたいと思っていました。バイオジオフィルターは、負荷を軽減するだけでなく、もっとポジティブ。水の循環サイクルのなかで、植物が育ち、昆虫や鳥が集まり、水路や池で魚が泳ぐ。排水は人間の営みによるものだけれど、営みを繰り広げることで環境が豊かになり、多様な命を育むことにつながっているのです。

    バイオジオフィルターのキーのひとつに、スピードがあります。水路の水は、とてもゆったりと流れていく。それが、命を集めたり、互いに作用したりするのにふさわしい速さ。僕らが見て、気持ちよく流れているな、と感じる速さとはまた違います。これは新しい気づきでした。というのも、都市で生活していると、そこには人やモノが集まり、どんどん消費しながら発展している感覚があります。でも、本当に必要なものを生み、消費しているのだろうか。スピーディな経済の合理性に、ただ流されていないか。そこでは本当の意味での集まり、交わりが希薄になっていて、むしろ都市ならではの孤独が起きていないか。そんなことに思いを馳せてしまうのです。

    自然に頼るシステムゆえ、バイオジオフィルターは、まだ完全に機能しているわけではありません。それでも仕組みをよく観察し、アシストするのはとても楽しい。手を加えるというより、自然の一部としての僕らが、そこに混ざり合う感覚があります。水の循環と命のつながりのなかで、自分が役に立てている。それは、本当に気持ちいいことだと感じています。