コロナ禍に戸惑うことなく、 新しいバランス感覚で未来へ。

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    Takeshi Kobayashi
    1959年山形県生まれ。音楽家。2003年に「ap bank」を立ち上げ、自然エネルギー推進や、野外イベントを開催。19年には循環型ファーム&パーク「KURKKU FIELDS」をオープン。震災後10年目の今年、櫻井和寿、MISIAとの新曲を発表。宮城県石巻市を中心に発信するアートイベント「Reborn-Art Festival」も主催している。
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    【分断と連携】
    DIVISION AND COOPERATION
    「ap bank」などの活動を通して環境問題に向き合うなど、サステイナブルな社会について考え、行動してきた小林武史さん。その目に、サステイナブルの行方はどう映っているのか。連載7回目のテーマは「分断と連携」。世界に目を向けると、アメリカや中国などの超大国が分断の種を撒き、それに対する連携を模索する人々がいる。我々の身近なところでは、コロナ禍により分断された生活を余儀なくされたにもかかわらず、そこから新しい習慣やテクノロジーの活用によって、これまでにない形の連携も生まれている。「分断に惑わされないこと。自分たちで感性を高め、新たなバランス感覚を身につけるのが、次の連携につながる」と、小林さんはこれからのサステイナブルな社会を模索する。

    コロナ禍に戸惑うことなく、 新しいバランス感覚で未来へ。

    森本千絵(goen゜)・絵 監修  illustration supervised by Chie Morimoto
    オクダ サトシ(goen゜)・絵 illustration by Satoshi Okuda
    小久保敦郎(サグレス)・構成 composed by Atsuo Kokubo

    いま「分断」といえば、アメリカのことがまず頭に浮かびます。白人中心的な考えを匂わせながら、アメリカ・ファーストを推し進めるトランプ大統領。超大国の露骨なふるまいが分断の意識を助長し、世界に拡散させているように感じます。一方、最近では黒人差別に反対するブラック・ライブズ・マター運動が大きなうねりとなっている。人種差別撤廃への活動が、世界規模の「連携」へと広がっています。

    中国と香港の特殊な関係も、大きな分断を生み出しました。国際的な論調は、民主主義的な解決を求めている。でも中国は内政干渉をするな、とばかりに耳を貸さない。香港の民主化を求める人たちは、国外に出たり、地下組織を通じたりして、自由への連帯を模索していると聞いています。

    これらの分断のおおもとは、白人が世界を制圧していった歴史と密接に関わっています。大航海時代にアフリカとの間で行われた奴隷貿易。アジアの植民地化。過去の負の遺産が、いまもくすぶり続けている。もちろん、そこに希望を見出すこともできます。たとえばアメリカでは、音楽や芸術をはじめいろいろな分野で、さまざまな人種が大きな役割を果たしてきました。個の自由を求めて異化することで、新たな文化を創造したのです。

    コロナ禍のいま、身近なところでも「分断と連携」が次々に引き起こされています。最初に僕らが求められたのは、「引きこもる」こと。否応なしに分断された暮らし方を余儀なくされました。ところがデジタルテクノロジーの浸透により、引きこもりながらも外とつながることができた。これまで都市へ一極集中することで経済合理性のシステムが機能してきたのだけれど、それが壊れ始めて、別の形での連携が生まれている。分断が、新たな連携を生むきっかけになったのです。

    そしていま、新たな分断が起きています。経済優先のアクセルを踏むのか、それとも感染リスクのブレーキを踏むのか。このバランスの取り方は難しい。しばらく僕らを悩ませることになるでしょう。明確な答えなんて、誰ももちようがないのですから。大切なのは自分たちで感性を高めて、新たなバランス感覚を身につけること。それが次の連携につながる気がしています。

    「自由には責任が伴うこと」と「いまの時代のエシカル(倫理感)の必要性」はイコールのように思います。過去から学びながら、大きな分断を解決する、乗り越える、もしくはかわしていく。そこには必要最低限の「分裂と連携」が繰り返される。そんなイメージがサステイナビリティへと繋がっていく気がします。