専門店が供する、肉厚な馬刺しの旨味を噛み締める渋谷・並木橋の夜。

  • 写真:尾鷲陽介
  • 文:岡野孝次

Share:

写真:尾鷲陽介 文:岡野孝次

専門店が供する、肉厚な馬刺しの旨味を噛み締める渋谷・並木橋の夜。

馬肉専門 走馬灯
渋谷
熊本産の新鮮な馬刺し
希少部位が揃う馬焼肉
ブドウ酵母を用いた芋焼酎

「刺し盛り4種盛り合せ」1人前¥1,280(税込)。注文は2人前から。左下から時計回りに、脂の口どけのいい「ちょうちん(バラの外側)」、赤身と脂身がほどよい「ロース」、カルビの一部分で甘みも際立つ稀少部位「ショウビ」、歯ごたえのある身質の「フタエゴ(あばら肉の一部)」。馬肉は熊本の千興ファームから取り寄せ、注文ごとに切って、新鮮な肉を提供する。

馬刺しに焼酎といえば、酒呑みにはテッパンの組み合わせ。九州流の甘い刺身醤油の風味だけでも杯が進むが、この醤油の濃厚な旨味、ときに馬刺しの味わいを邪魔しないだろうか。

「馬刺しは採算度外視、厚く切って提供します」と話すのは、2020年8月、渋谷・並木橋にオープンした「馬肉専門 走馬灯」の大将・大靏(おおつる)哲生さん。赤身と脂身のバランスがいいロースの馬刺しは、最初こそ醤油の甘味が勝るが、噛むうちに馬肉の旨味が際立つ。表面積も広いので、とろける脂の甘さも、赤身のおいしさも、舌を覆い尽くして伝わってくる。これぞ九州の甘い醤油と新鮮な馬刺しが堪能できる、理想の切り方だ。

また馬刺しと並んで人気という馬焼肉こそ、専門店の本領が発揮される一品。「焼き盛り合わせ」には、赤身の味わいの新鮮なヒレやハラミに加え、クリーミーな食感が出色のシビレ(胸腺)など稀少部位も入る。そしてやはり嬉しいのが、馬肉は高タンパク、低カロリーなこと。脂身もさっぱりとしているため、残暑で食欲が落ちる晩夏には、牛ではなく馬焼肉でパワーチャージ。最後はいまや貴重な「ユッケ丼」で締めくくるのも妙案だろう。

馬焼肉は伊賀焼の陶板でできたグリルで焼く。「加熱してもタンパク質が壊れにくく、ふっくらと焼きあがります」と大靏さん。右のハラミは刺身でも食べられる肉なので、軽く炙って酢ベースのたれにつけて。左のシビレは、よく焼いて、炒った玄米と塩をつけていただく。「焼き盛り合わせ」1人前¥1,680(税込)。注文は2人前から。

左から、麦焼酎「兼八」グラス¥680(税込)、芋焼酎「富乃宝山」グラス¥580(税込)、ソーヴィニヨン・ブランから採取された酵母で発酵させた珍しい芋焼酎、鹿児島・小正醸造「蔵の師魂 The Green」グラス¥580(税込)。それぞれ馬刺しに合う。また、芋、麦、米の他、しそや栗の焼酎も揃える。

2階はカウンター席が中心。3階はテーブル席がメインだが、小体なカウンターも備える。カウンター席からは、渋谷・並木橋交差点を眺めることができ、晩夏のいま、開店と同時に「馬肉メンチカツ」や「黒すじポン酢」などを肴にビールやワイン、ハイボールなどを煽っていると、眼前に夕暮れを眺めることができるだろう。