東京車日記いっそこのままクルマれたい!
第106回 LAMBORGHINI HURACAN EVO SPYDER / ランボルギーニ ウラカン EVO スパイダー
とても“レオニダス”なファイティングブル!? ランボルギーニ・ウラカン EVO スパイダーが棲む世界とは。
ランボルギーニ最大のヒット作となった初代ウラカン。そのサーキット仕様のペルフォルマンテが発表されてから2年経たずして、ほぼ同等の走行性能をもったウラカンが登場した。それがこのウラカン EVO。リアウィングを付けなくてもエアロダイナミクスに優れ、パワーアップした自然吸気の5.2L V10エンジンを搭載した、ペトロールヘッズ熱狂のファイティングブル。それがウラカン EVOだ。
ランボルギーニの血はひと際熱い。相変わらず心打たれるのは、フロントウィンドーに迫りくる路面の近さ。特にショートノーズでもないんだけど、リアミッドシップの長所を活かし、ヒップアップしたドラッグカーのような臨場感をドライバーにもたらす。レーシングゲームの視点操作で、いちばん前のフロントウィンドー越しの視点と言えばわかるかな。あの感覚に近い。まずこの迫りくる臨場感が、一般道でもいきなりサーキットに連れ出された感覚にしてくれるんだな。
アクセルを踏み抜けば、爆音とともに一気呵成に高速域へと侵入。視界に入る変速タイミングを告げる青いシグナルの明滅とともにシフトアップすると、エンジンは狂おしく咆哮する。クワーンと身体を震わせる高回転サウンドに圧倒されながら、時速100kmを過ぎるとボディ全体でエグゾーストノートが共振していき、そこからは全身がスピードの塊になる。先代ウラカンよりさらに安定して超高速域に入っていこうとするので、時速300kmは「あっという間だろうな」という印象。さらに言うと、アクセルを踏みっぱなしのエンドルフィンの海原に到達するのも、想像しているより遥かに速いスピード域と予想できる。最高速度は時速325kmだけど、「いやいや、まだまだ。お戯れを」って気がしたな(笑)。
峠をオープンにして走れば、背後から聞こえてくるV10エンジンがとにかく最高。出し惜しみなく響き渡るエグゾーストノートとともに峠を攻めれば、サイズ感のよさが際立つ。青いサインとともにシフトアップ、シフトダウンはアクセルをあおるブリッピングとともに、派手なアフターファイヤー音で急減速する。このマッシブなマナーは「さすが5.2L」という強力な制動力とあいまって、ウラカン EVOのハードコアな魅力になっているわけ。さらにシャシーの剛性感とともに、4輪駆動の安定感にも舌を巻く。キツめのワインディングコースでも自らカーブに飛び込むように侵入し、ハンドリングもスーパーフラットと形容したい安定感を維持してくれる。
より高性能に進化した、自然吸気エンジンの象徴。
もちろんウラカン EVOで導入されたリアアクスルステアリング(後輪操舵)と、定評のトルクベクタリング(総輪トルク制御)が効いているわけだけど、まるで乗り慣れたクルマを運転するような安心感がある。この扱いやすさはフィードフォワード制御ロジックと呼ばれる、ドライバーの癖に合わせた運転予測システムが作用しているから。このへんのAIの精度の高さは、思わずアウディの創業者、アウグスト・ホルヒが顔を出したって感じかな(笑)。スパイダーだから剛性を確保するためにクーペより120kgほど重くなっていて、この重量増のハンデは乗ってみると想像できなくもない。そうであってもこのV10エンジンをオープンエアで楽しみたい向きには、スパイダーを選ぶ価値は「断然ある」と言いたいね。
そう。このウラカン EVOは2020年の現在における、スピードとエンジンの化身とも言うべき存在であり、同門格上のアヴェンタドールとともに大排気量の自然吸気エンジン最後の牙城なんだ。そもそもランボルギーニは、熱狂するためにこそ存在する。メーターパネルに示されたレブリミットは1万回転。優れたエアロダイナミズムや8000回転で640馬力を出力するV10エンジン、4輪駆動に関するアウディの怜悧な知見も、このクルマが超高速域に存在するためにある。特に自然吸気エンジンはアクセルを踏みっぱなしの状態から、どこまで回転を上げて速度を高められるか、そのマシンとドライバーが溶け合うような感覚にこそ最大の魅力がある。どこまでも先を目指すエンドルフィン延長機能というかね(笑)。
今回ウラカン EVOのハンドルを握って、普段は考えもしない気づきがあった。それはランボルギーニを筆頭に、「スーパーカーとは、なぜこんなにもアドレナリンを出させるモビリティなのか」ってこと。これは超高速域のエンドルフィンの世界に到達するために、脳がアドレナリンを必要とするからなんじゃないかと思ったんだ。
エンジンの始動だけで周囲をざわつかせるウラカン EVO。その存在感はスパルタンそのものだし、語源である古代ギリシアの都市国家・スパルタは平和(エンドルフィン)のために自らを鍛えたなんて言うつもりはないけど、ランボルギーニは乗る人はもちろん見る人のアドレナリンをわき立たせ、闘争本能や生存本能をくすぐる。
それは「アートのようなものか?」と問われれば、「バッダス(最高にヤバい)です」と答えたい。あるいはスパルタの英雄になぞらえて、「レオニダスみたい」とかね(笑)。故にそんなクルマのハンドルを握るオーナーは、断然孤高であるべきだとも思った。そして闘技場よろしく、「サーキットに行きませんか」ってことですよ。ウラカン EVOで自分との真っ向勝負もまた美しきかな、だよね。
●サイズ(全長×全幅×全高):4520×1933×1180mm
●エンジン形式:90度V型10気筒DOHC自然吸気
●排気量:5204cc
●最高出力:640PS/8000rpm
●駆動方式:4WD(ミッドシップエンジン4輪駆動)
●車両価格:¥36,110,362(税込)
●問い合わせ先/ランボルギーニ カスタマーサービスセンター
TEL:0120-988-889
www.lamborghini.com