Vol.27 ジグザグ

  • 文:佐藤早苗
  • 編集:山田泰巨
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Vol.27
Vol.27 ジグザグ
ジグザグ

ヘーリット・トーマス・リートフェルト

文:佐藤早苗 編集:山田泰巨

4枚の板を接ぎ合わせたシンプルな構造の椅子。一度見たら忘れられないZ型のフォルムは、1934年にオランダのヘーリット・トーマス・リートフェルトがデザインした「ジグザグ」です。木製のカンティレバー構造は一見、座ったら壊れてしまうのではないかと不安に思わせるデザインですが、座ると安定感があり、頑丈に作られていることがわかります。

その名の通りジグザグの形状は、空間を切り裂くような心地よい緊張感を与える。サイズはW370×D430×H740×SH425mm

1930年代初頭、ヘーリット・トーマス・リートフェルトはオランダの老舗デパート「メッツ」から大量生産できる椅子のデザインを依頼され、当時の椅子の概念を覆す「ジグザグ」を提案します。いま見ても斬新なデザインはいつの時代も人々を魅了し続け、アーティストのドナルド・ジャッドやデザイナーのカール・ラガーフェルドに愛された椅子としても有名です。

リートフェルトがこの椅子を「椅子ではなくデザイナーのジョークだ」「椅子ではなく空間を仕切るもの」と語ったこともあってか、デザイン重視のアートのような作品と捉えられがちです。しかし、強度や座り心地はしっかり確保されています。リートフェルトはもともとパーツを組み立てるのではなく、ひとつのパーツで椅子を作りたいという願望をもっていたといいます。さまざまな素材でそれを試したものの当時の技術では不可能だったため、板を繋いでひと続きに見えるようなこのデザインが生まれました。

初期に製造された椅子は座面と脚部をボルトで接合していましたが、1970年代にカッシーナが製造するようになると、金属は一切使わずに組み継と隅木(すみぎ)による補強だけで作られるようになります。そしてリートフェルトが思い描いた単一のパーツで椅子を作るという夢はデンマーク人のヴァーナー・パントンに引き継がれ、技術革新によって改良を重ね「パントンチェア」が生まれることとなるのです。

背もたれの後ろには、移動させるときに掴みやすいよう小さな窪みがある。金属のジョイント類を使わず、脚部は組継ぎした背もたれと座面を隅木(すみぎ)で補強している。

ナチュラルウッドのチェリー、アッシュの他、レッド、ブルー、イエロー、ブラック、ホワイトも。