Vol.33 返送された本をそのまま販売する!? オランダのブックデザイナーの大胆な試み。

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    写真・文:中島佑介(POST)

    Vol.33 返送された本をそのまま販売する!? オランダのブックデザイナーの大胆な試み。

    “Return to Sender” / Hans Gremmen / Fw:Books
    『リターン・トゥー・センダー』 / ハンス・グレメン 企画 / Fw:ブックス刊

     他国に先駆けて1926年に装丁賞「ザ・ベスト・ダッチ・ブック・デザインズ」が設立されたことからわかるように、本のデザインに対して高い意識をもっているオランダ。多くのデザイナーがしのぎを削る中、毎年のようにこの賞にノミネートされている、ブック・デザインのキーパーソンとも呼べる人物がハンス・グレメンです。彼は自身で「Fw:ブックス」という出版社も主宰し、2008年の設立以降、約80冊の本を刊行。そこで行っている特別なプロジェクトが、「Retuen to Sender」(リターン・トゥー・センダー)です。

     グレメンは自身のウェブサイトでも通信販売を行っていますが、受取人が不在だったり住所不明だったりして、本が戻ってきてしまうことが度々ありました。彼はそれらを開梱せず、すべてそのまま保管していたそうです。「Return to Sender」は、この返送された本をそのまま包みごと販売するという企画です。
     グレメンの手がける写真集はコレクターからの評価も高く、30作品以上は既に売り切れて絶版です。新品での入手はほぼ不可能、高いものは古書市場で10万円以上の値が付くほど。そういった入手困難な本を手にいれるチャンスとして、この「Return to Sender」が企画されました。

     包みの中にはレアアイテムかもしれない、絶版かもしれない本が入っています。販売価格は一律ですが、なにが入っているかは開けてみるまでわかりません。入っている本を想像する楽しみに加えて、封筒に何重にも貼られたシールや配達員による書き込み、宛先変更の履歴など、それぞれが経てきた痕跡も魅力のひとつ。誰かの手に渡るはずだった本が届かず、保管されているうちに価値が変わっていったという物語のある「Return to Sender」は、書店で一冊を選ぶ時とは異なる本との出合いを提供してくれます。

    返送されたパッケージ。国によって郵便局での取り扱い方法も異なるため、それぞれに違った痕跡が残っています。再配達の度にシールが貼られたのでしょうか、このパッケージには何枚も重ねてシールが貼られています。


    「Return reason: Not at home」(返送理由:受取人の不在)。配達できなかった理由が記載されているパッケージも。元の宛先は消して販売します。

    中に入っている本の一例。『Cette Montagne C’est Moi』(セット・モンターニュ  セ・モワ)はFw:ブックスの中で最も評価の高い一冊で、現在の古書市場では約15万円で取引されています。

    “Return to Sender” / Hans Gremmen / Fw:Books
    『リターン・トゥー・センダー』 / ハンス・グレメン 企画 / Fw:ブックス刊
    タイトル:『リターン・トゥー・センダー』
    企画:ハンス・グレメン
    出版社:Fw:ブックス
    出版年:2018年
    価格:¥37,800(税込)