出汁に着想を得た、濃くてボリュームのある白。

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    鹿取みゆき・選&文  尾鷲陽介・写真

    出汁に着想を得た、濃くてボリュームのある白。

    モンガク谷

    北海道の余市町には、モンガク谷と呼ばれる土地があります。ここはゆるやかに続く北斜面になっており、目の前には余市湾と町のシンボルであるシリパ岬が望める素晴らしい光景が広がります。この地でブドウを育ててワインをつくっているのが、木原茂明さんと妻のゆうこさんです。

    木原さん夫妻は、自分たちの農園で収穫したブドウを混ぜておいしいワインになることをイメージして、どんな品種を植えるのか、品種の比率をどうするのかを決めていきました。育てる品種から、最終的なワインの味わいをデザインしていったのです。

    つくろうとしていたのは白ワインでしたが、味わいのベースに据えたのが、黒ブドウのピノ・ノワール。さらにそれを補う品種として、同じピノ系の品種であるピノ・グリ、ピノ・ブラン、シャルドネ(シャルドネはピノ・ノワール系の品種)を選びました。そしてほのかな苦みのアクセントを添えるために、ソーヴィニヨン・ブランを加えたそうです。

    「鰹出汁と昆布出汁と素材の出汁という、料理の出汁の組み合わせにヒントをもらいました」と木原さん。「ただし、動物性の鰹と植物性の昆布を合わせる日本の出汁のように、相反する組み合わせがワインでもうまくバランスを取れるかどうかわからなかったので、原則的には同じような系列の品種を選んでみました」

    収穫したほとんどのブドウは一緒に房のまま、できるだけ優しく搾り、果汁をそのまま静置します。そして上澄みだけを分けて、混醸での野生酵母による発酵がスタートするのを待ちました。野生酵母による発酵が順調に進むようにブドウの清潔さを徹底するのはもちろんですが、年により、あらかじめ少量のブドウで酒母をつくってスターターに使うこともあるようです。

    そうしてできたのが「モンガク谷」。黒ブドウであるピノ・ノワールが多いせいか、白ワインとしては色がやや濃い目です。口に含んでみると、色合い通り、初めに感じるのはボリューム感。でも果実味をすぐに豊かな酸味が追いかけてきて、それが余韻として長く続きます。確かに白ワインではあるのですが、単独の品種でつくられたワインとは異なる、複雑さももっています。

    冴え冴えとした余韻が心に残るワインは、まるでモンガク谷の美しい自然がワインに昇華したかのようです。

    ラベルに描かれた絵は、木原夫妻のお嬢さんによるもの。『モチモチの木』という絵本のワンシーンをモチーフにしています。そのシーンとは、さまざまな神様が行う夜祭の様子。何種類もの野生酵母たちがタンクの中で湧き上がって発酵することが、まるで神々の一大パーティのように感じられたからだそうです。夫妻は、酵母こそが醸造家であり、自分たちの役目はパーティの環境づくりだと考えているそうです。

    木原夫妻は、子どもの誕生をきっかけに、「もっと相手の顔が見える関係で食や暮らしを考えたい」と13年間の大都市でのサラリーマン生活に終止符を打ち、北海道で農業に従事することを決めました。当初はすべて無施肥・無農薬でスタートしましたが、ブドウが育たず、現在はできるだけ自然に優しいブドウ栽培を目指しています。


    自社畑面積/約2ha
    栽培醸造家名/木原茂明・ゆうこ
    品種と産地/ピノ・ノワール、ピノ・グリ、ピノ・ブラン、シャルドネ、ソーヴィニヨン・ブランなど(北海道後志地方余市町)
    ワインの容量/750ml
    価格/¥5,000(税込)
    つくり/房のまま搾った果汁を、タンクで静置後、上澄みのみを野生酵母で発酵させる。少量の亜硫酸(メタカリ)を、果汁時、ブレンド時、瓶詰め直前の最大3回加える(2017年産はブレンド時の1回)。補糖・補酸・清澄、ろ過なし。
    栽培/低投入・低環境負荷・不耕起草生栽培。農薬は栽培3年目からオーガニック認定品(ボルドー、納豆菌系)等を基本に、基本的には年1回殺虫剤を使用。手作り液肥を含め、葉面散布を数回実施。肥料は牛糞、ウニ殻などを自家調合。

    ●モンガク谷ワイナリー 
    https://mongakuwinery.com

    ※この連載における自然派ワインの定義については、初回の最下段の「ワインは、自然派。について」に記載しています。さらに毎回極力、栽培・醸造についての情報を開示していきます。