無理のない青を携え、
生活の中で美を放つ器。

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    Creator’s file

    アイデアの扉
    笠井爾示(MILD)・写真
    photograph by Chikashi Kasai
    山田泰巨 ・文
    text by Yoshinao Yamada

    無理のない青を携え、
    生活の中で美を放つ器。

    小野象平Shohei Ono
    陶芸家
    1985年、愛知県生まれ。常滑の陶芸家、鯉江良二を師として作陶を学んだ後、父・小野哲平のもとで器づくりを始める。1/17から東京のシボネ青山にて、さらに2/15から大阪のアートサロン山木、5/12から東京のBLOOM&BRANCH青山で自身の展覧会を開催予定だ。

    「一般的に青い器は食事と合わせにくいから、敬遠されがちなんです」
    高知県香美市で活動する陶芸家、小野象平は自身の器を手に苦笑する。しかし暗色の器に浮かび上がる深い青に魅了されるファンは多い。小野は自ら山で土を掘り、檜(ひのき)の灰を使う釉薬の制作も含めて一から器づくりに挑む。地元の赤土は鉄分が多く、焼き物に向かないと言われるが、あえて使用している。この鉄分と釉薬が結合して生まれる自然の色だから、「無理のない青なのかもしれない」と小野は言う。

    陶芸家の小野哲平を父にもつ小野象平は、20代半ばまで会社員として働いた後に、絵画やグラフィティを見ようとイギリスなどを旅して巡った。やがてロンドンで父の師である陶芸家、鯉江良二の作品『土に還る』の展示と出合う。自身の顔を型にとった作品に衝撃を受け、小野は国してすぐに鯉江のもとへ向かった。

    「厳しい父の背中を見て育ったので、興味があっても陶芸には手を出せずにいました。しかし鯉江先生は『いいものを見て育ったお前には、身体の中に器の記憶がある』と言い、器をつくるように勧めてくれました」

    作陶を学びながら、これまで敬遠してきた父の姿に向き合うことにもなったと小野は振り返る。いまは自身の作陶に励むが、父の仕事も手伝っている。だからこそ、自らの器づくりでは土や釉薬づくりから始め、父とは違うものをつくろうと挑戦を続ける。

    小野は、父の器はひとつの椀が強さをもって語りかけてくるものだと言う。一方、彼が目指す器とは、日々の生活のなかで美を感じさせる強さをもったものなのだ。

    「師匠や親父は、器は人間性が投影されるものだと言う。だから自分自身が面白い人間にならないといけないと感じています。また、器は用途のあるものですが、その『用』が削がれても成立する強さをもちたい。そして雑味のない美しさが尊ばれる時代だからこそ、雑味のある美しさを出したい」

    小野は大阪で行う個展で大きな顔のオブジェを発表するなど、器とは違った作品にも取り組んでいる。

    「いまは、ギャラリーで学生が器を買い求める時代。初めて見聞きした音楽や絵画に感じた興奮を、器でも感じてもらいたい。私は恵まれた環境にあります。ですから、力のあるものをつくり続けて、自身を証明していかないといけないんです」

    works

    小野の作品はいずれも手に馴染む、優しいフォルムを描く。青みがかったグレーが特徴的。photo : Akihide Mishima

    幼少期には父・小野哲平とともに世界各国を旅した。現在は高知県香美市で作陶し、父の仕事も手伝っている。
    photo :Mei Ikegami

    ※Pen本誌より転載