絵画の可能性を追求し続けた、世界が注目する画家の個展。

  • 文:赤坂英人

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『ゲルハルト・リヒター Painting 1992 - 2017』

ワコウ・ワークス・オブ・アート

絵画の可能性を追求し続けた、世界が注目する画家の個展。

赤坂英人美術評論家

『アブストラクト・ペインティング( 946-4)』2016年。「ドイツ最高峰の画家」と呼ばれるリヒター。2012年のサザビーズの競売でリヒターの作品が約26億円で落札された。それは当時、現役の画家の作品として史上最高額だったという。©Gerhard Richter Courtesy WAKO WORKS OF ART

『アブストラクト・ペインティング( 753-9)』1992年。©Gerhard Richter Courtesy WAKO WORKS OF ART

『アブストラクト・ペインティング( 945-2)』2016年。©Gerhard Richter Courtesy WAKO WORKS OF ART

常に流動する世界のアートシーンで、最も評価が高く、かつ先鋭的な表現を展開しているアーティストと言われる画家が、ゲルハルト・リヒターだ。日本では2年ぶりとなる彼の個展が、東京のギャラリー、ワコウ・ワークス・オブ・アートで開催されている。 

ゲルハルト・リヒターは1932年、旧東ドイツのドレスデン生まれ。「ベルリンの壁」ができる直前、61年に旧西ドイツのデュッセルドルフに移住。現在はケルンを拠点にしている。 

今回の個展は、ワコウ・ワークス・オブ・アートが開廊された92年から数えて25周年に当たるのを記念して開かれた。そのため2016~2017年に描かれた新作に加えて、リヒター自身がこの四半世紀の重要な作品を選び、構成も考えたという。選ばれた作品には世界で初めて公開される絵画もある。 

実際、リヒターは1960年代から現在に至るまで、さまざまな表現の様式を展開してきた。 

たとえば、新聞・雑誌の写真のイメージを精密にコピーし、微妙にぼかす『フォト・ペインティング』シリーズや、色鮮やかなカラー・チャートを幾何学的に配列する『カラー・チャート』、「グレイ(灰色)」だけですべてを展開する『グレイ・ペインティング』、17世紀以降のドイツ・ロマン派が描いたような風景画。また鮮烈な色を組み合わせる『アブストラクト・ペインティング』など、まさに多彩を極める様式のオン・パレードだ。 

そして「絵画と写真」「具象と抽象」「現実と仮象」など、古典的とも言える問題を見る者に投げかける。 

問いかけの背後には、インターネットに象徴されるさまざまなメディア情報が交錯する中、絵画の可能性を追求するリヒターの一貫した姿勢を強く感じさせる。彼の絵画は、現実とイメージが交差する、不確かな現在を生きる私たちを映す、「鏡」のような存在かもしれない。

『ゲルハルト・リヒター Painting 1992 - 2017』

開催期間:~1月31日(水) 
開催場所:ワコウ・ワークス・オブ・アート
TEL:03-6447-1820 
開館時間:11時~19時
休館日:日、月、祝
入場無料 
www.wako-art.jp