#22ドイツの工房から届けられた、用の美をたたえた器。
魅力的な和食器はいまや迷うほどにありますが、洋食器でこれは!という出合いは限られてしまうもの。陶芸家が洋食器もつくる時代、ティーカップやディナープレートも作家もので良いのかもしれませんが、やわらかな陶器にカトラリーを合わせるのはちょっと抵抗があると思う人もいるはず。そんな時、ドイツのマルガレーテンヘーエ工房の器に出合いました。
シンプルで端正なフォルムに、艶やかで深みのある色合い。手にすると、しっかりと焼き締められた重みのある手取りで、肉料理を合わせても、炒め物や餃子のような料理を盛りつけても良さそう。マルガレーテンヘーエ工房は、1924年にバウハウスの影響下で設立されたドイツ最古の工房です。87年に、ディレクターに就任した李英才(リー・ヨンツェ)さんのもと、器のコレクションを立ち上げました。以来、約30年間色もかたちもほとんど変わらず、器をつくり続けています。その充実したラインアップが揃う企画展が、六本木のリビング・モティーフで開催中です。
ディレクターの李さんがコレクションを立ち上げた時になにより大切にしたのは、機能から生まれる形の美しさだと言います。丸、三角、四角の幾何学を出発点に、形は考えられました。ユニークなのは、その形のつくり方。絵に描いて指示するのではなく、サイズ、もととなる形だけを伝え、まず職人に20個ひいてもらい、その中から一番良いものを取り出し、その方向でさらに20個ひくという作業を繰り返したそう。これは、器のかたちはろくろをひく人の体から湧き上がってくるものでなければならないという李さんの信念に基づいたものです。こうして、バウハウスの理念を継承し、李さんのルーツである韓国のやきものにもつながる、シンプルで作為のない形は生まれました。
工房の器は2~3人の職人の手づくりによるもの。幾何学をもとにし、工房ラインとして作家性は抑える。けれども、職人の手によってひかれた豊かなボリュームをもち、ろくろ跡や釉薬の重なりという自然なゆらぎは残しています。その微妙なバランスが、西洋と東洋の両方の魅力を湛えた器となって、結実しています。
シンプルで現代的な料理道具がみつかる、老舗デザインショップ
器に限らず、リビング・モティーフはキッチン&テーブルウェアを始めとしたインテリアアイテムを30年以上にわたり紹介し続けている老舗。六本木という場所柄、スタイリストや料理家などのプロも通う、洗練かつ充実した品揃えが特徴です。めずらしいアイテムへの目配りも行き届き、他にはない気の利いた一品が必ず見つかります。今回の取材で編集部が目をつけたのは、卓上スモーカー。ワインに合うチーズやベーコンの薫製が気軽につくれ、これからの季節、ホームパーティーやアウトドアにもぴったり。
時代に流されない、一本筋の通ったセレクトについて、プレスの小竹千景さんは「シンプルでコンテンポラリーなものが多いです。基本的なことですが、形だけでなく、道具としての機能性を重視しています」とのこと。男性客が多いというのも納得です。近隣の大使館員や駐在員など外国人客も多く、パーティー用にセットで買い求めたり、買い足しの需要もあり、常にある程度の在庫を確保しているそう。そのため、いわゆる作家ものの取り扱いは難しいといいます。
リビング・モティーフがマルガレーテンヘーエ工房の器を扱うのも、作家としての李さんの器ではなく、工房ラインとして安定して供給され、長年変わらないスタンダードだから、という理由があります。ずっと扱い続けるということは、使い心地についてスタッフに尋ねることができ、ひとつ気に入ったら買い足すこともできる。食卓を支える器を選ぶ際の信頼感や安心感につながります。
今回は、器の使い方の提案をしたいと、ポスタルコのデザイナー、マイク・エーブルソンさん、写真家の泊昭雄さん、エッセイストの平松洋子さんにオススメの使い方を聞いた冊子を配布しています。マイクさんは残り物やクッキーを入れるコンテナとして、蓋付きポットを選びました。泊さんは花器としてピッチャーを、平松さんはプレートに鮮やかな色の料理を合わせたり、ワンプレートとしてカップを重ねる使い方を提案。和食を入れても土っぽくならず、洋食を合わせても風情がある。現代の食卓にぴったりの器をまずは、店頭で触れてみてください。
LIVING MOTIF
東京都港区六本木5-17-1 AXISビル B1F、1~2F
TEL:03-3587-2784(1F)
営業時間:11時~19時
www.livingmotif.com
※「マルガレーテンヘーエ工房の器」展は10月16日(日)まで。
10月15日(土)、16日(日)の13時からはマルガレーテンヘーエ工房の石岡祥子さんが在店。