#19北欧とインド、バウハウスが出会ったOYYOのラグ
汗ばむ盛夏になると、家のなかのラグの素材感が気になります。素足でさらりと歩きたくなるものがほしい。そう思っていた時に、横浜のインテリアショップ「black&white」でオーガニックコットンのラグに出会いました。縦糸にリネンを使い、コットンの横糸をしっかりと打ち込んでいる平織りのラグは、薄手で清涼感のある表情をもちます。軽やかなのでダイニングテーブルの下に敷く大判タイプでも扱いやすいのが特長です。
このラグは、スウェーデンのリーナ・ゼディとマーカス・オーレンの二人が立ち上げたデザインユニット「OYYO」が、インドの伝統的なラグ「ダーリ」の伝統技法を用いるラジャスタンの職人とつくったものです。black&whiteオーナーの福泉寛史さんは、「光を受けた時の色の美しさを楽しんだり、空間に景色をつくれるのがラグの良さ。OYYOのラグは薄手なので、敷いたままではなく、気分で動かしながら使ってほしいです」と言います。
OYYOのラグの魅力は、なんといっても植物の染料で先染めしたオーガニックコットンの色にあります。そしてグラフィカルなパターンは、インドの伝統的なパターンはもちろん、なんとバウハウスの時代のデザインを落とし込んだものといいます。そのためか、現代のインテリアにふさわしい表情をもちます。ニュアンスのある独特の配色と幾何学模様は飽きることがなく、木製の家具にもモダンなアイテムにも寄り添ってくれそうです。ちなみに、いまのところOYYOのラグコレクションを店頭で複数紹介しているのは、国内ではblack&whiteのみ。カタログやウェブ上ではわからない素材感や発色の美しさを確かめに、都内から店を訪ねてくる人も多いそうです。
福泉さんはプロダクトとしてのラグの魅力を感じ、直接OYYOにコンタクトをとって日本での取り扱いをスタートしました。交流を重ねるうちに、彼らがプロダクトとして魅力ある形をつくっただけでなく、生産のプロセスにも大きく関わっていることを知ります。
「優れた技術をもった織り手を支え、また化学的な負荷を環境にかけずに生産された素材やプロセスを選ぶことで、ラグを買う人もつくり手も生活が整っていくようなデザインを目指している。社会的なアプローチのプロジェクトだと気付きました」
デザインだけではなく、その取り組みや考え方に共感して選ぶ楽しみ。
店内には、福泉さんが“男前なデザイン”と評するポーリーン・デルトゥアはじめ、クリスチャン・メンデルツマ、マルティーノ・ガンパー、ピート・ヘイン・イーク、そしてブルレック兄弟らのプロダクトが、彼のフィルターを通してセレクトされています。現代に活躍するデザイナーが中心とはいえ、black&whiteにはここでしか感じることのできない“もの”の風景があります。それはデザイナーの考え方に共感したり、コンセプチャルな取り組みに惹かれたりしたことをストレートに表現するスタンスを福泉さんが大切にしているからではないでしょうか。
なかでも注目したいのは、OYYOのように社会的な取り組みをデザインに落とし込んだプロダクトです。たとえばリネンを原料の産地から加工方法までリサーチしているメンデルツマの「フラックスプロジェクト」もそのひとつ。また、ぺぺ・ハイコープの「ペーパーベースカバー」も福泉さんが大切にするアイテムで、使用済みのプラスチックボトルを花瓶として再利用するプロダクトであり、カバーの製造をインドのスラム街に住む人々に依頼し、貧困から脱却させることを目指す「Tiny Miracles FOUNDATION」の一環になっています。
2011年にオープンしたblack&whiteの店名は、照明から生まれる「光と闇」に由来するそうです。店内にはフロスのカスティリオーニの照明器具の中でも、ウィットに富むデザインでありながら、インテリアを豊かな光で満たすものをセレクトしています。
「もともと家具や雑貨のバイヤーを長年務めてきましたが、インテリアの中でテクニカルな領域だった照明器具についてきちんとお客様に説明したくなって、独立前に照明業界で勉強したんです。店を始める時も、大好きなアキッレ・カスティリオーニの照明器具を軸にインテリアアイテムを増やしていきました」
中華街も至近なことから周辺には駐車場も多く、地下鉄の駅からもアクセスしやすいところに立地しています。横浜散策の折にぜひ訪ねてみてください。家具から手に取りやすいテーブルウエアまで、福泉さんがこのデザイナーは! との思い入れのあるアイテムのユニークさと、その背景に流れるストーリーの密度にきっと満足するはずです。