前回に続けて訪ねたのは、同じく東川町の「SALT」。こちらは、前回紹介した「LESS」の浜辺さんと同世代の米山勝範さんによるライフスタイルショップです。

自身が尊敬するつくり手のものを伝えたいと生まれ故郷に戻り、米山さんがSALTを立ち上げたのは2009年のこと。13年にはいまの場所に移転し、建物も新たにしました。店の名は、人間が生きていくのに必要不可欠な「塩」に含まれるミネラルのように、その土地の人に必要とされるお店になりたいと名づけたものとか。「ものの売り買いのなかで、ウソがないようにしたいんです。とりわけ生活を豊かにするものを売るのは、背景にあるストーリーを売ることと同じですから」と米山さん。穏やかな口調の中に芯の強さを感じます。

そんな米山さんがセレクトするのは、ファッションアイテムやアウトドアプロダクトともに自身が長く使っていて心地よいもの。マウンテンリサーチやandWanderなど、アウトドアウエアとしてスペックとデザイン性を両立したものから、自然素材でシンプルな日常着をつくる宮崎県都城のアウリコまで幅広いセレクトを楽しめます。

ほかにも、地元の木工作家に依頼してつくったペンドルトン社のファブリックをシートに貼ったオリジナルスツールや、同じく地元の作家によるエゾジカの角製ディアホイッスルなど、コミュニティとつながりのあるアイテムも魅力的。アウトドアアイテムも豊富で、同じくマウンテンリサーチのランプやガスバーナーをはじめとしたプロダクト、ステンレスへら絞りの野外食器「アナルコ カップ 」などが揃います。

「冬になると、東川町ではスキーやスノーボードなどのウィンタースポーツが日課のように身近になります。いい山がそこにある、という感覚がもてることは幸せですよね」と米山さん。自身もアメリカの世界大会に出場するほどのスノーボーダーで、世界のボーダーたちの憧れでもある日本製の手づくりのスティックも年を通じて販売しています。

道内はもとより、遠方から遊びにくる来訪者にもゆっくり過ごしてもらえるよう、店内にはカフェを併設します。珈琲は、隣町の美瑛にある珈琲店「ゴーシュ」が自家焙煎する豆をドリップ。持ち帰りでも、店内で飲んでもOKです。せっかくならば、戸外のウッドデッキでスツールやデッキチェアに座ってのんびり風景を眺めて楽しむのがおすすめ。アイテムについてはもちろん、ウィンタースポーツやトレッキング、リバーサップなどのアクティビティについて語り合うのもいいかもしれません。

テント、タープ、デッキチェア、そしてマグカップやランプなどのアウトドアグッズは、都会暮らしでは自然とのつながりを意識するためのアイテムになりがちですが、ここでは日常の延長線上にあります。生活に溶け込んでいくようなもののストーリーをきちんと伝えることが大切という米山さん。言葉だけではなく、生活を楽しんでいるSALTや米山さんの暮らしの状況がそのツールになっているのかもしれません。

最後に訪ねたのは旭川市中心部に近い「IN MY BOOK STORE」。佐々木康輔さんが運営するファッション＆ライフスタイルショップは、今年6月にオープンしたばかり。店内に流れるアメリカンロックからもわかるように、テイストはカジュアルな「ザ・アメリカンズ」。

「浜辺さんはじめ、僕の先輩にあたる店主のみなさんは、自分の感覚を頼りにすることや、選ぶものに対する思い入れの深さが大切だと教えてくれたんです」という佐々木さんは、「Less Higashikawa」で長く勤めた後にこの店をオープン。小さなコミュニティで自分らしい生活の提案をし続けるため、大好きなカリフォルニア州をはじめとした西海岸発信のものや、つくり手のものをセレクトすることにしたそうです。

ちなみに“IN MY BOOK”という英語のフレーズには、“僕の解釈では“とか、“僕的には”という意味があるといいます。佐々木さんが自分らしい生活を送るために選んでいるもの、そして好きな人や好きな土地から受け取ったものを表現したのがこのお店だといえるでしょう。

「ちょっと男の子っぽいものを集めた、カジュアルな空間」を目指したいうように、黒くペイントされた有孔ボードの壁には、ユニークなアイテムやものづくりに欠かせないツールがバランス良く並びます。オープン前に西海岸やアリゾナ州のネイティブアメリカンの聖地で買い付けてきたアイテムは、バナキュラーでオーガニックな空気感を部屋に呼び込んでくれそう。西海岸のコスメやホームフレグランスブランド「エリザベスダブリュー」、カリフォルニア発のグルーミングブランド「バード」なども定番としてセレクトしています。

これから力を入れていきたいというのは、オリジナルの鹿角のアイテム。エゾシカの角を用いた作品を制作するnot square（ノットスクエア）の山崎哲平さんとの共同プロダクトといいます。アクセサリーではなく、あえてウォールに設置する一点物のフックにしたのも佐々木さんらしいこだわりかもしれません。

「シカ角やレザーのアイテム以外にもオリジナルのプロダクトを仲間とつくりだして、ここから発信していきたいですね。また、生活のなかでのプロダクトの使い方や楽しみ方を提案するインショップイベントも今後活用できるよう企画していきたいんです」

今日もふらりと立ち寄る仲間と一緒に語る物語が、この空間をより魅力的なものにしていくに違いありません。