Vol.01 これからの本の可能性を示してくれた、デザイナーのひと言。

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    写真・文:中島佑介

    本を愛してやまない人たちに向けた新連載がスタートします。定期的にひとつの海外の出版社に焦点を当て、その出版社の本だけを取り扱うという独自の選書を展開しているショップ「POST」。そのディレクターである中島佑介さんが、いま気になる一冊をピックアップし、その本にまつわるストーリーを語ります。記念すべき第一回にご紹介するのは、オランダ人デザイナー「メーフィス&ファン・ドゥールセン」のアートブックです。

    Vol.01 これからの本の可能性を示してくれた、デザイナーのひと言。

    Recollected work / Mevis & Van Deursen / ARTIMO
    リコレクテッド ワーク / メーフィス&ファン・ドゥールセン / アルティモ

    本の買付けのためにいちばん多く訪れているオランダは、他国と比べても面白いアートブックが多く、毎回新しい刺激を受けます。「世界は神がつくったが、オランダはオランダ人がつくった」と言われるのは干拓によって国土ができているからですが、文化的な側面でも「オランダはオランダ人がつくった」と思いたくなるほどユニークです。特にアートやデザインなど、形のないものに価値を見出せる文化が根付いています。オランダでグラフィックデザインが発達しているのも、この価値観が広く浸透しているからでしょう。個人的に好きなオランダのデザイナーの名前を挙げ出したらキリがありませんが、いちばん最初に挙げたいデザイナーは決まっています。メーフィス&ファン・ドゥールセン(Mevis & Van Deursen)です。アーマント・メーフィスとリンダ・ファン・ドゥールセンの二人組からなるこのデザインチームは、1986年に活動を開始。雑誌やポスター、アートブックなど紙の表現を得意とし、ファッション、アート、写真といった文化的なフィールドを中心に活動をしてきました。ていねいで着実な歩みとともに彼らの評価は徐々に高まり、現在はオランダ国内だけでなく、世界を舞台に活躍をしています。

    過去の製作物を使って、新しいグラフィックをつくるという発想。

    なぜオランダには面白いアートブックが多いのだろうかと疑問に思っていた頃に、彼らのオフィスを訪れる機会があり、デザイン学校で教鞭も執っていたリンダに、「オランダのデザイン教育ではどんなことを教えているのか」と質問をしてみました。彼女によると、「学校では技術的なことは教えないの。生徒たちはまず自分でテーマを設けて、そのテーマについて徹底的にリサーチすることを求められる。その後、リサーチの結果を他者に限りなくシンプルに伝える方法を考えてかたちにする。その訓練を繰り返すことでデザインについて学んでいくのよ」といいます。課題も講評も厳しく、入学しても卒業までにいたらないケースもありますが、卒業した時にはコンセプトを立てて、テーマをグラフィックデザインで可視化するための思考力と編集能力が備わります。これらの能力が土台となってオランダに特有のグラフィックデザイン文化が育まれ、ブックデザインに関しては、編集能力の優れたデザイナーが制作に携わる結果として、面白いアートブックが多いようです。また、「本をデザインする時に大切なことは?」という質問に対する彼女の回答も興味深いものでした。「本をはじめとする印刷物は、手に取ってページをめくったり触ったりする三次元的な行為をともなうもの。それを意識しなくてはいけない」と。

    彼らが2005年に制作した自分たちの作品集には、リンダの言っていた印刷物に対する考え方が見事に反映されています。過去の仕事をまとめるにあたって、複写した図版をまとめても単なるカタログにしかならず、オリジナルのなにも伝わらないから意味がありません。作品集として価値のあるものをつくるために彼らが考えたのは、過去の製作物を使って新しいグラフィックをつくるということでした。実際に行ったのは、いくつかのアートワークを組み合わせて写真に撮るという単純な手法ですが、これがなかなか奥深い。過去の仕事がまとまっているのはもちろん、比較によって各々のサイズ感もわかり、個別だったものを組み合わせることで関係性が生まれ、関係の中にウィットやユーモアが表れます。これまでに手がけてきた仕事の物質的な側面を大事にしているからこそ、単なる複写を許容しなかった彼ららしいアイデアです。

    一般的に「本」から連想するのは、「二次元の集積物」ではないかと思います。実際、それぞれのページは限りなく二次元に近いし、読書時には平面を見ているので、本の質感を意識することは多くありません。しかし、本が物質的にも体感的にも三次元的なものだと意識した瞬間、楽しみ方は一気に広がります。インターネットが発達したことで、出版社やデザイナーたちがメディアとしての本の存在意義や価値について向き合っている今日、本には現代の表現として多くの可能性が秘められていて、ますます面白くなっていくのではないかと最近は特に感じています。「本は三次元を意識しなくてはいけない」というリンダの言葉は、これからの本の可能性と、自分自身が印刷物に惹かれている理由に輪郭を与えてくれた回答だったのだと、いまになって改めて思います。

    Recollected work / Mevis & Van Deursen / ARTIMO
    リコレクテッド ワーク / メーフィス&ファン・ドゥールセン / アルティモ
    ページ数:205ページ
    装丁:ソフトカバー
    サイズ:20.5 × 27.5cm
    商品コード:ISBN 978-90-8546-031-X
    出版年:2005年
    価格:¥17,280