違和感をストックして、ユーモラスな会話劇に。

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    Creator’s file

    アイデアの扉
    笠井爾示(MILD)・写真
    photograph by Chikashi Kasai
    小川知子・文
    text by Tomoko Ogawa

    違和感をストックして、ユーモラスな会話劇に。

    山田由梨Yuri Yamada
    「贅沢貧乏」主宰/劇作家/演出家/女優
    1992年、東京都生まれ。子役として役者デビュー。学業のため引退するが、自らの意思で15歳で女優活動を再開。立教大学在学中に劇団「贅沢貧乏」を旗揚げ。以来、全作品のプロデュース・脚本・演出を手がけ、デザインやイラストも担当。

    http://zeitakubinbou.com

    山田由梨、24歳。「日常にある違和感を拾うこと」から、彼女の頭の中で新たな物語が動き出す。街中を歩いている時、ニュースを見ている時、社会に対して覚える「何かがおかしい」という感覚。その違和感をなるべく身近な問題に置き換えてみる。そうすると、その問題について会話している人物が浮き出てくるのだという。

    「小さな違和感をストックしているんです。たとえば、幸せって何かを考えた時に、やっぱり朝日とともに起きて夜寝ることかなと思いました。だとすると、24時間営業のコンビニで働く人はそれが叶わない。便利だから抜け出せないけれど、嫌な構造だなと」。そこから彼女が手がけた、一軒家を借り、そこで暮らしながら稽古し、演劇作品を発表するという「家プロジェクト」の第3弾『ヘイセイ・アパートメント』が生まれる。アパートに見立てた一軒家に住む平成生まれの女たちが主人公。女たちはコンビニなどで夜勤をして生計を立てているが、少しずつ非日常な世界へとズレていく。観客は、それぞれの部屋で同時進行する会話劇を自由に観てまわることで、彼女らの日々を自然と切り取ることができるという構造が話題を呼んだ。

    「最初は演劇をつくっている意識はあまりなくて。頭に思い浮かんだことを具現化していったら、たまたま演劇だったんだと思います。一軒家での公演もよく非劇場型とカテゴライズされますが、必然的にそうなっただけ。でもいまは演劇って、人生を体現する自由で最強な総合芸術だと思っています」。作品を通じ、現代社会だけでなく、演劇界に対しても問題提起をしてきた。前回の一軒家プロジェクトは、直前に劇場に入る際に生まれる疎隔をなくすため、住み込みながら舞台を完成させた。新たな公演は、アパートの2部屋を舞台にした2人芝居となった。

    「今回は、生活に馴染むように演劇をすることがコンセプト。働きながら舞台をしている俳優側の視点も考えて、週休3日での長期上演システムを導入しようと試みています。時代が変わっていくなかで、演劇界に対して自分たちの考えを提示していくこと。それが、次世代の演劇界を生きる私たちの役割であると思っています」普遍的な不安を繊細でユーモラスな会話劇ですくいとり、貧乏でもとびきりの贅沢を与えてくれる「贅沢貧乏」。そこには、誰もが味わいたかった体験が待っている。

    works

    『ヘイセイ・アパートメント』。家プロジェクトその3として、西大島江東区北砂の一軒家で2015年4月から約1カ月上演された。

    5~6月に上演された『ハワイユー』。江東区北砂にあるアパートの一室が舞台に。超近距離演劇が体験できた。

    ※Pen本誌より転載