写真:SHINMEI(SEPT)
Vol.01 ジュンヤのTシャツと、バスクシャツのエピソード
旬のファッションアイテムに焦点を当て、その周囲に広がるストーリーに迫るPen Onlineの連載「着る/知る」。Vol.1の今回は、「コム デ ギャルソン・ジュンヤ ワタナベ マン」のクリエイティブなTシャツを取り上げます。デザインのベースである “バスクシャツ” の定義や着こなしに言及している次ページもぜひ合わせてご覧ください!
「コム デ ギャルソン・ジュンヤ ワタナベ マン」の2016年春夏コレクションのシャツは、同ブランドが得意とするパッチワーク技法が冴える一着。夏らしい爽やかさと、アーティスティックな感性が一体になっています。
服と図案が自然に馴染んでいるのは、パッチワークがキュビスム絵画ふうだからでしょうか。キュビスムの大家であるパブロ・ピカソは南フランスに住み、バスクシャツの愛用者でした。フランスの代表的なバスクシャツブランド「セントジェームス」とのダブルネームでつくられたこのシャツから、フランスの香りが漂うのも当然かもしれません。
着るときはシャツを主役にしたコーデを狙いたいものです。白、ネイビー、グレーの無地パンツを合わせて全身の色数を少なくし、柄のオレンジ、赤、黄色のアクセントカラーを目立たせましょう。
スポーティなコーデが似合うマリンウェア
本場フランスでは通じない名称である “バスクシャツ” 。フランス~スペインのバスク地方の漁師が着ていた服が由来と言われていますが、ヨーロッパでは “ブルターニュ(の地方)” “マリン”らの言葉で説明される服です。
バスクシャツの大きな特徴は、1. ボーダー柄 2. 短い袖丈 3. 横広がりの首周り、など。それぞれの役割を知ると、海で働く人のワークウェアなのだと分かります。
「1」のボーダー柄について。この柄の理由は、海で発見されやすい目立つ配色だからです。なお、“ボーダー” も日本固有名称で、英語では “ホリゾンタル・ストライプ(水平の縞模様)” と呼ばれます。
「2」の短い袖丈は、動きやすさのため。7分~9分丈の袖により、肌の露出を防ぎながら(日焼けを防止しながら)、快適に活動できます。
「3」の、個性的なネックラインを、“ボートネック” といいます。伸縮性のある柔らかいニットを編む技術がなかった20世紀前半の時代。水に濡れて固くなった服を脱ぎやすくするために、横に長いネックが工夫されました。
これらのディテールを有するバスクシャツは女性にも似合うソフトなニュアンスがあり、パリモードのココ・シャネルは20~30年代に自身が愛用するほどのお気に入りでした。デニムよりも以前に、労働着としてのマリンルックとモードは親和性が高かったのです。
バスクシャツの有名なフレンチブランドは、「セントジェームス」、「オーシバル」、「ルミノア」など。近年ではビンテージ感のある「フィルーズダルボー」の人気も高まっています。写真掲載しているパリのサーフショップ「WAIT」のシャツには、「ルミノア」の生地が用いられています。こうした変化球も楽しめるのがバスクシャツの奥深さでしょう。
ワークウェアがルーツのカジュアル服ですから、着こなしで無難なのは合わせる服の素材をコットンや麻などのざっくりとしたものにすること。光沢のあるドレッシーな服とのコーデは難易度が高いようです。靴もレトロなキャンバススニーカーが相性抜群ですが、現代的なハイテクタイプをチョイスしてもOK。 常に “スポーティ” を意識しさえすれば、失敗のない着方ができるはず。今年なら皆さんに極太のルーズなワイドパンツをお薦めしたいところですが、お好みしだいってことで……。(高橋一史)