生命力あふれる、自由で小粋な作品たち。

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    Creator’s file

    アイデアの扉
    笠井爾示(MILD)・写真
    photograph by Chikashi Kasai
    住吉智恵・文
    text by Chie Sumiyoshi

    生命力あふれる、自由で小粋な作品たち。

    エッコEKKO
    クリエイター
    ●1982年、東京都生まれ。東京藝術大学大学院修了。2015年個展『EKKO UN DIA』(TRAUMARIS)を開催。12/3~25 三軒茶屋TROPEで『SWEET CHRISTMAS TIME』展を開催。昨年秋、初の作品集『UN DIA/Show Me The Way To Go Home』を出版。

    www.ekkoart.com/

    EKKOの作品を初めて見たのは確か、彼女のダンナがやっているデスメタルレコードショップだった。架空の国々の旗や紋章。世界のあちこちに導く道標。アイテムの選び方とそれらを扱う小粋な仕草が気になっていた。
    「大学院では版画も専攻したし、紙の仕事がいいなと思い、グリーティングカードの会社にインターンで入りました。ところが自分の描いた桜の絵柄のカードが最初に商品化された時でさえ、全然うれしくないんです。こんなに辛いなら、やはり作家活動をしようと辞めました。その頃ネットを見たら、美術や音楽のヒエラルキーの外に、生活の延長上でバランスよく活動しているアーティストたちがいて、芋づる式に知り合って、作品をシェアすることができる世界を知ったんです」 

    メキシコのアートフェアに出展した体験から作風がより拓かれ、生命力あふれるビビッドな色彩と、ほどよくカラリと乾いた筆づかいを発展させた。
    「メキシコのグラフィックデザインの洗練と、フリーダ・カーロに象徴される素朴な人間くささを目の当たりにしました。その後フィンランドにも行ったんですが、自然信仰や魔術がまだあった時代の延長にあるような、未開拓のミクスチュア感に魅了されます」 

    2012年よりシリーズで制作しているのが、荒涼とした砂漠や草原を俯瞰し、思い出か蜃気楼か、小さな家やアンプや小動物が浮かぶ地平線に向かってまっすぐ続く道を描いたペインティング。EKKOがいまを生きる日本で感じる閉塞感と、見えない未来への展望をテーマとしたライフワークだ。1980年代生まれの世代がやり過ごしてきた「戸惑い」や「つまずき」が、デフォルトの社会で、野心に翻弄されず、斜に構えることもなく、自分自身のクリエイションを突き進めるエネルギーを感じさせる。

    「困難な時代だけど、ロンドンやNYのメインストリームを目指さないやり方もあると思うんです。90年代のグラフィティやHOBO(放浪者)を描いたマーガレット・キルガレンの影響を受け、名もないフォークロアアートや、古い看板や標識のもつ郷愁に惹かれます。メインからズレて自由に広がっていくようなオフビート感が、私たちの世代の特徴なのかもしれません」と自身のルーツに触れた。旅のスーベニアと音楽をかたわらにたずさえ彼女が歩いていく道には、アートの新しい地平が見えてくるに違いない。

    works

    作品集ではアーティスト伊藤桂司とのコラボによるコラージュ、個展会期中ライブ参加した音楽家たちのミックスCDも収録。

    昨年夏の個展『EKKO UN DIA』(TRAUMARIS)展示空間。手染めのテントを設え、毎晩のようにライブやメキシコ関係のイベントが繰り広げられた。

    ※Pen本誌より転載